釣りと人生
2015年6月 8日
ある企業の社内報を手にとった。「これ見て」というH社長のコラムを読みはじめた。
「趣味の一つに釣りがあります。私の信条は単純で『魚のいないところでは釣れない』。当たり前のことですが、私は釣れないとすぐ移動し、餌を新しく付け替えます」と記していた。
まったく同感だった。私の釣りもそうなのだ。海釣りの経験もあるが、今は運動もかねて川を歩くために渓流釣りを楽しんでいる。年に4回程度「ヤマベ釣り」をしている。
今年も禁漁前の4月末に大樹方面へTさんと一緒に釣りにでかけた。歴舟川支流で、いつもなら魚が餌に食いついてくるはずなのに何もない。下流へ移動してみる。深みのある淵や、魚のいそうなポイントに何度も餌を流してみるが、魚が餌に食いついてくる感触がない。
今日はこの川に目当てのヤマベが少ない、そう私は判断した。竿を置いて、ナイフをとりだして、川縁のフキを採りはじめた。山菜採りに変更した。
すると川下からバケツと竿を手に熟年の男性がきた。釣れますか?、と私は声をかけた。釣れないです、と応えた。彼は地元の人で、ヤマベ放流事業に協賛していた大企業が昨年で降りてしまった、と言った。
養殖ヤマベの放流が少なくなった。しかし、サクラマスが産卵に遡上する川なのだから天然のヤマベもいるはずだ、そう思った。私は竿を畳みながら同行者のTさんに、別の川に移動しますか、と提案した。
車に乗り、10キロ先の川へ向かった。川上に向かって歩きながら餌を流すと魚の食い付く感触がすぐに竿に伝わった。この川はヤマベがいると確信した。後ろから釣り人がきた。先ほどの熟年男性だった。顔を見合わせて苦笑した。彼も同じ川に移動してきたのだ。「遠慮せずに先に行ってください」と私は彼に伝えた。やがて彼は数匹のヤマベを釣って帰っていった。その川で私は20匹のヤマベを釣った。Tさんは19匹だった。同じ程度の釣果で気持ちが和んだ。
冒頭の社長のコラムは、こうつづいていた。
「ビジネスにも共通する信条だと思います。うまくゆかないと感じたらすぐに戦略、戦術を変えてくり返し試してみること。魚釣りもビジネスの成果も同じ。魚のいないところで、釣れるのを待つのはムダ」と社長は結論づけた。
私もつねに希望と可能性に賭けて歩んできたが、人生の成果(釣果)は、まだ分らない。
◎プロフィール
(よしだまさかつ)
3月に「流転・依田勉三と晩成社の人々」を自費出版。7月4日にとかちプラザで「依田勉三の歩みを語る」講演会を予定。