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エッセイSP(スペシャル)

ジョバンニ

梅津 邦博

2015年6月29日

 たとえば作陶によって干支の置物をつくる場合、作家によっては素晴らしい作品がある。そこからは何かしら存在感のようなものが伝わってくるのだ。価値があるとはそういうことでもあるのではないか。それは食品でも同じことがいえるだろう。
 パンにしても有名無名店に限らず、様々な種類の商品がたくさん並べられてそれなりに売れてはいるだろう。周りを見ていると買い物客はほとんど女性が多いようだ。ぼくは気持ちの隅で、パン屋で男が品定めをして歩くということに少し抵抗感がある。どうもトレーを持ってトングを掴みながらどれにしようかと迷い歩くさまに気恥ずかしさを覚えて落ち着かない。
 ともかく、昔からどこでも売られているものだから、食べやすさもあってかみんなに愛されているだろうしそれだけで充分なのかも知れない。時代とともにさまざまなパンも作られているのだ。見栄えのするものもあるが、しかし手が伸びて行かない。これを買いたいと思うところまでいかないのだ。魅力に乏しいような気がしてしまう。もっとも、芸術的食品ばかりを求めているわけではないけれど。もちろん食べ物は、要は食って旨ければそれでいいとも言えるが。
 ぼくもフランスパンなどは好きな種類のものではあるが、しかし、歯科医のT氏いわく「こっちの人はフランスパンなどそんなに食べないほうではないかな。東京の人はよく食べるので『歯壊しのパン』とも呼ばれている」という。硬ければゆっくり食べるといいのに、ふつうに咀嚼するからそうなってしまうのではないか。

 十勝清水町に「ジョバンニ」という『銀河鉄道』に出てくる主人公の名を冠したベーカリーショップがある。30代の痩身で優しくおとなしそうな店主の青柳さんと、しっかり者の奥さんの二人でやっている。小さな売り場は漆喰の壁で床は桜の板敷、コーナーの壁にはメルヘンチックな丸時計が吊り下げてあり、至ってシンプルな店内で素朴さと品位がある。
 あまり多くを語らない店主いわく「毎日同じに作ることを心掛けている」とのこと。パンの品数は多くはないかも知れないが、どれも眺めていると存在感が感じられてくる。ハード系とソフト系が半々ぐらいか、全体的に単なる思い付きだとかで作られたものがなく気分がいい。食パンやメロンパンなどよく売れているそうだ。
 ぼくは、フランスパン生地にクランベリーを練り込んでなかにクリームチーズを入れて焼き上げた小さなラグビーボールの形をした「クランベリーとクリームチーズパン」と、そのチーズが入っていない方の「クランベリーテーブルロール」の2種類、そして厚切りしたレーズンパンにカスタードクリームとクルミをまぶしたクッキー生地をのせて焼いた「アマンダ」などを買った。
 ふと振り向いたら並べられているパンの側を、なんだか銀河鉄道の列車が小麦粉の入った袋をたくさん積んで走っているような雰囲気がしてきた。ジョバンニも乗っているのかも知れない。

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)
喜久屋書店/ザ・本屋さんにて発売中です。

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