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エッセイSP(スペシャル)

釣り友

吉田 政勝

2015年7月27日

 5月初めだった。
 電話に出ると「アラン・ドロンさんですか」と男の声がした。戸惑っていると、寅次郎です、と名乗った。
 お互いが笑い声になった。釣り友のNさんだった。彼とは7年ほど会っていなかったが、時々メールで冗談を伝えあっていた。メールで彼は寅次郎と名乗っていた。
 彼は「この間、職場の仲間と食事していたら、北海道の山ワサビを知らないって言うからさ。送ってくれないかい」と言うのだった。「わかりました」と私は即答した。
 山ワサビを買ってきて、6人分程度に分けた。箱に余裕ができていたので、帯広の名物のお菓子と紀州産の梅干しも入れた。Nさんと仲間たちが、山ワサビを食べ、おお辛い、と言い合う様子が想像された。
 Nさんと出会ったのは、15年ほど前に釣り友のHさんの紹介だった。休日は3人で夏の渓流釣りによく出かけた。釣りは、早朝、出かけることが多いので、前日の夜からNさん宅に泊まった。彼は離婚後、独り暮らしだった。プライベートな事柄を聞かない主義の私だが、Nさんの口から語られた。
 釣り前夜は楽しかった。近くのスナックへゆきカラオケを歌った。Nさん宅でDVD「男はつらいよ」を見ながら、スーパーで買ってきた弁当を食べた。
 寅さんの映画は何気なく雑談しながら観ても十分に楽しめた。Nさんは家族と別れたが、寅さんの人情的な映画を観ていやされているのだな、と私は想像した。
 7年前、Nさんは十勝を離れ自宅を売って本州に出稼ぎに行った。3年ほど消息がわからずにいたが、何気なく携帯メールを送ったら返事がきた。住所が分かったので私の自費出版の「流転・依田勉三~」を贈った。山ワサビを送ったのはその1ケ月後であった。
 私はその荷物の中に手紙を入れた。
「十勝在住時は寅次郎様宅にお邪魔し、ヤマベや山菜を天ぷらで食べ、泊めていただきました。一緒に釣りをしたことは私の人生を彩る実に楽しい思い出となりました。これはほんのお礼のしるしです。お返しは考えないでください。いつか故郷の十勝で2人でヤマベ釣りをする日を夢みております。本州へゆくことがあれば必ず寅次郎様に連絡をさしあげます。お元気で~」
 数日後、Nさんからメールがきた。
「送ってくれた山ワサビは好評です。手紙を読み、涙が出そうになった。寅次郎」
 その文字を見つめていると、陽に焼けたNさんの笑顔が脳裏に浮かんできた。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)
北海道新聞「朝の食卓」元執筆者。十勝毎日新聞「ポロシリ」前執筆者。「流転・依田勉三と晩成社の人々」刊行。

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