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エッセイSP(スペシャル)

師走

冴木 あさみ

2015年12月 7日

 今年も残すところあとわずか。師走に限ってなぜこうも時間は早く過ぎていくのだろう。師走の語源は諸説あるが、正確なところは解らないらしい。「十二月は師匠の僧が経をあげるためにあちこち走り回る。〝師が走る〟からきている」というのが一般的に知られる説だろう。
 師は先生という説もある。子供の時母に「先生も走りまわるほど忙しい月だからよ」と教えられたことで、私はずっと師とは学校の先生と思っていた。(先生というものは十二月以外ヒマなのか~)などと生意気な受け止め方をしてしまった。私が小学生の頃、もう四十五年以上も前のことになるが、職員室では新聞を広げている先生、お茶を飲みながら談笑している先生、煙草をふかしている先生もいた。全体的にのんびりしていて、やっぱり先生は呑気な仕事なんだとその都度納得をしている自分がいた。誤解だったのか、確かにそういう時代もあったのか知らないが、今の先生は十二月どころか年中忙しく走り回っている。精神を患う率も高いとしばしば報告されているほどだ。師走の師に先生という説はもはや現代には当てはまらない気がする。
 地球が一年をかけて太陽の周りを一周し、十二カ月の月に分かれ、師走があるというのはありがたい。若いうちはただの「自然の摂理」で終わってしまうかもしれないが、その摂理は人間に一年を振り返り反省をし、来年への希望を胸に抱くための節目の月をちゃんと用意してくれている。そして日出ずる国、初日の出に手を合わせる日本の風習というのもいい。
 元旦からデパートやスーパーが開くようになって久しいが、それが必要かどうかいつも疑問に思う。家族そろって初詣の後は家でのんびり過ごしていたあの頃。日本の正月の原風景は風化していく。便利という物理的な豊かさは趣という心の豊かさを遠ざける。忙しい毎日に便利は欠かせないが、この忙しいという状況も本当に必要なものなのだろうか?
 十二月事業所で餅つきをしようということになった。杵も臼もないから電動餅つき機だが、手間暇かけてつきたての餅が食べたい。昔はみんなでついたよね。餡もきなこも好きだけど、おろし大根に醤油が一番だよ。そうそう、鬼おろしでおろした辛味大根。懐かしい。六十歳前後の女性の多い職場なので、昔の思い出話に尽きることはない。
 明日という日に不安が付きものになってきた今の社会だからこそ、 ささやかな趣を探してそっと感謝したい。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉事業所勤務。
就寝前の読書は最近暫く敬遠していたフィクションの世界に浸っている。

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