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エッセイSP(スペシャル)

迷う・・

たかやまじゅん

2016年1月25日

 大掃除をしていると数十年前のノートが出てきた。丁寧に書かれた文字に一瞬、誰が書いたもの!?と首を傾げた。しかし紛れもない自分の持ち物だった。
 子どもの頃から脇に国語辞典や漢和辞典を置き、書いては消し、消してはまた書くことを繰り返した。これで字を覚え、読み方を知ったと言っても過言ではない。
 いまはパソコンで手紙と原稿、そして一寸したメモでもキーボードを打つ。変換や字句の入れ替え、さらに検索までのスピード感は手書きと違う。反面、文字を忘れ始めてきた。それを如実に賀状書きで感じる。
 せめて宛名は自筆でと始めた文字は乱れ、ほんの一行添える漢字や送り仮名を見て「これでよかったのかな」と迷うことしきり。こうして書き終えるまで時間を費やしてしまう。
 もしや、加齢によるものではと思ってみたりもした。ものの本に、「思考と好奇心は、疑問を持ったとき調べることで新たな知識を得る」との記述があった。リタイアして6年経ったが、物事への関心度や人とのつながりは少なくない。
 先ごろも映画好きの人を紹介される。「12月18日に会いませんか」と聞くと予定があるとの返事。なんとその日は、話題になった映画の限定公開日であった。
 その翌日、「結末は控えますが・・」と感想のメールが届く。私も数日後に観たことから賀状に「行ってきましたよ。年明けに語りましょう」と添えた。
 私の周りには、趣味の研究や収集において、他に引けを取らない知識や資料を持つ人たちも多く、まさに類を持って集まる。幸い、知己の数や知識はいくら貯めても場所は取らない。
 最近、「終活を視野に身辺の整理を始めた」と賀状に書かれてくる。私なら処分するか否かを迷って、思い切ることが出来ない。
 いままた、奇想の絵師と謳われる伊藤若冲の画集が畳の上を占有して、まるで冬の陣の後に、外堀から内堀まで埋められた天守閣だけの大坂城のようだ。
 身の置き処は机と椅子、そして寝床のスペースだけになった。おまけに廊下まで積み上げた書籍が、家族のひんしゅくを買っている。
 こうなると、出城となった真田丸のような広い別の場所が欲しいと、つくづく思ってしまう。

◎プロフィール

〈このごろ〉足の筋肉が痛む。それが雪の舗道やしばれた交差点を歩いた後に起きる。滑って転ぶのが心配で、足に力が入っていた。

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