病院で
2016年4月25日
人の行動には、なんとなく当人の個性が出るものだ。私の行動や生活ぶりも決して平凡ではないと思う。
4月最初の火曜日の朝、家を出て帯広の某皮膚科に着いたのが9時前だった。2週間ほど前に蕁麻疹にかかり、2度めの診察にきたのだった。
診察開始前なので、30人ほどの患者さんが待合室の椅子に座っていた。何気なく左の側に座る高齢者の男性に視線が向いた。そのじいさんは肩のあたりを手でかいていた。すると隣に座る中年の女性が「かゆいの?」とじいさんに声をかけた。「でも、かいたらダメだよ。がまんしなくちゃ」とつけくわえた。父につきそってきた娘か、息子の嫁だなと解釈した。その女性は「わたし、専門家だから診てあげる」と言った。私はそのことばに驚いた。よその皮膚科に勤務する看護師さんなのか?。
女性は「あっ、トイレ。あそこなら大丈夫」と言い、じいさんと共に立ち上がっていった。5分ほどして二人は戻ってきた。「歳いくつなの、おじさん」と女性が訊いている。「…66歳」とじいさんは答えたが、80歳前後の印象だ。その女性が「返事に間があったのはどうして。忘れたの?」と問う。
私は舅と息子の嫁との二人を想像していたが、どうやら待合室で隣り合わせになったものらしい。女も少しさしでがましい。他意はなく年寄りに親切にしているだけなのだろうか。私の名前が呼ばれたので診察室にはいった。S先生の「よくなってきたね」とのことばを聞いて安心して診察室を出た。
その足で友人が入院する病院に向かった。だが、病室に彼がいない。ナースステーションに寄ると「Tさんは退院しました」との返事。見舞いの果物を手に病院を出た。T氏とは35年以上のつきあいがある。若いときに週末の夜、帯広の街を遊んだ仲だ。ときおり、彼の主催するイベントを手伝ってきた尊敬する友なのだ。
T氏の動向を知るために彼の知人に電話で聞いた。「専門医を求めて転院したらしい」との返事。ためらいながらT氏にメールを送った。「専門医に頼るのがベスト。3月は風邪が長引き蕁麻疹になり私は見舞いにゆけず」と詫びた。「東京にいます」とT氏の返信。「俳優の渡辺謙も白血病を完治したから東京でよい治療方法があるはず」と私は励ましの送信をした。返事は「ありがとう」。5文字を見る目に涙がにじんだ。
◎プロフィール
(よしだまさかつ)
北海道新聞「朝の食卓」元執筆者。十勝毎日新聞「ポロシリ」前執筆者。昨年「流転・依田勉三と晩成社の人々」刊行。