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エッセイSP(スペシャル)

ああ、おばさん

冴木 あさみ

2016年6月 6日

 バス最前列の一人用座席に、小さい兄妹が二人で座っていた。ペットボトルのジュースを飲んだり、お菓子を食べたりして、時折後ろの席の若い父親に「まだ~?」と時間を気にしている。京都駅前行のバスは観光客で混雑していた。退屈が徐々に幼稚園児くらいの兄のストレスになってきたようだ。何がきっかけか三歳くらいの妹を小突き始め「うそつき」「今ウソ言っただろ?」と繰り返す。小突く手がパーからグーになり、妹の顔色も怪しくなってきた。間近に立っていた私は兄をじっと見つめ無言の圧力をかけた。目が合った兄ははっとして、ちょっかいをやめた。足元にレジ袋が落ちたので「これ、君の?」と拾ったら「はい」と受け取り、さらに座席の背もたれに潰されている空の袋を「これも?」と指さすと、彼はさっとそれらを回収し小さなリュックに押し込めた。座席には少々のパン屑が散らばっていた。
「またあ。よその子供に声を掛けたり教育しようとしないでよ」
 二泊三日の短い旅のお供の娘が口を尖らす。
「教育しようなんて思ってないけど。こういうおばさんは社会に必要なの。昔はどこにもいたの」
 よその子を注意すると親が殴り込んでくる世の中だ。体格のいい子が相手なら、反撃もありうる。道端で下手に子供に声もかけられない。時代と共に町からお節介なおばさんや怖いおじさんの姿が消えた。
 一方で閉鎖的だった学校という組織が最近変わりつつある。学校や家庭という枠を超えて子供を育てるというコンセプトを打ち出し、地域支援ネットワークのようなものが既に出来ている場所もある。学校の勉強と家庭教育の両輪だけに任せきりにしない。地域の子供は地域で守り育てていくというものだ。ボランティアを募り、最近私の住む町にもコミュニティスペースが開設され、こども食堂も始まるらしい。
 夕食を子供は百円で食べられる。夕方親がいない家庭の子供たちへの心遣いのようだ。月一度の活動らしいが、興味があるので私も参加してみようかと思っている。運営するのは若い母親や地域のおばさん達。毎日忙しく働く父親の参加は無理として、やはり地域の活動になくてはならないのは女性の存在だ。現役子育てママさんも、ベテラン母さんも一緒に力を合わせる。自分の子供が幸せであるには、周りの子供も幸せでなくてはならない。自分の子もよその子も同じように…という気持ちは昔のお節介おばさんと怖いおじさんがいた時代への回帰だ。だからといって私がお節介おばさんを目指しているわけではない。知らない人に声を掛けたり掛けられたりするのはおばさんの習性らしいと、最近強く感じる場面があるだけだ。

◎プロフィール

さえき あさみ
娘と二人で京都を歩いた。何度訪れてもまた行きたい大好きな街。よそ者は本当に住みにくいのかなあ…

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