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エッセイSP(スペシャル)

JAKUCHU・・

たかやまじゅん

2016年6月20日

 京の台所と呼ばれる錦市場は、いまも店が軒を連ねる。今春、四条通りから大丸京都店を抜けアーケード街を目指すと、〝若冲生誕300年〟のタペストリーが旗めいていた。
 江戸時代中期、ここの一角にあった老舗の青物問屋を、23歳で継いだ四代目枡屋源左衛門。この枡源の旦那が、40歳で弟に店を任せ、好きな絵の道を歩んだ。その名を伊藤若冲(じゃくちゅう)・・うっかりすると「わかおき・・!?」と読まれかねない。
 初めてその絵に出逢った時、あまりのリアルさに、「なんだ、この気味の悪い絵は・・」と思ったものだ。しかし、いつしかこれまでには、いや、今までにも見たことのないほどの輝きと描写の魅力に惹かれ始めた。
 画面いっぱいに鳥・・魚・・虫・・花・・動物が描かれ、そこにはユーモアさえも感じられ、まさに動植物ワンダーランドの傑作揃い。85歳で没するまでの作品は、水墨画や石版画まであり、これらが一堂に会する「若冲展」に行ってきた。
 朝8時、上野駅公園口から足早に初夏の森を抜け東京都美術館に向かう。9時半の開場を待つ列の最後尾は、建物の裏側であった。並ぶこと2時間、人垣をぬって眼にする絵は、筆の妙技と色彩が心に迫り、思わず「うっ!」と絶句、実物に触れた喜びがジワジワと湧いてくる。
 たったいまカメラが捉えたような構図と画風は、これが江戸時代の絵師かと感嘆せざるを得ない。後日、入場待ちは5時間を越えたそうな。
 今回の展示にも、アメリカからエツコ&ジョー・プライスコレクションが、多数出品された。2013年、東北3県で開催された復興支援の若冲展でも人気を呼んだモザイク画のような「鳥獣花木図屏風(ちょうじゅうかぼくずびょうぶ)」と三の丸尚蔵館所蔵の「動植綵絵(どうしょくさいえ)」が話題となっている。
 プライス氏は実業家だが、若冲始め江戸絵画のコレクターとしても知られ、60数年前に出遭った一枚の若冲に始まると聞く。テレビで紹介されたロサンゼルス郊外の邸宅にある収蔵庫と鑑賞室を見て、「あんな保存場所があれば・・」と思うのは、私だけだろうか・・。
 収集家として見識も高く、そのひた向きな姿勢は、物を集める者にとってジャンルこそ違え、尊敬に値する。氏のお陰で、若冲の名が拡がったと言っても過言ではない。
 今年、86歳のプライスさんは、近ごろ若冲に風貌が似てきたような。Thank you, Mr. Price.そしておおきに、若冲はん・・。

◎プロフィール

〈このごろ〉3年前に行った熊本城。修復に10年、費用が数百億円とも。それでも、再びライトアップされたその姿には、城の持つ力強さがあった。

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