極め・・
2016年7月18日
大道芸人が、カナダで始めたと言う「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、サーカスと軽業に新体操やオペラ、そして斬新な可動装置とプロジェクション映像、さらにライブ演奏にカラフルな衣装の多国籍キャストによる総合芸術だ。肉体の動きの限界に挑んだショーとして、シリーズの日本公演も10回を超える人気で、一度は観たいと思っていた。
五月雨がそそぐ中を、サーカステントのようなイベント会場のお台場ビッグトップに行く。ショーが始まる前、ピエロが現れ、客席を回り始めた。私の側に来た彼が、「立て・・」と言う素振りをする。わけもわからないまま山高帽子を被せられ、ピエロの鼻みたいな赤いボールを私の鼻に付けた。三千人の客席から笑いと拍手が起きる。
その時、彼がお互いの服を指差したことで「ピエロと私の着ていた服の色が同じ赤!」と気付いた。恥ずかしさも忘れ、何回も何回も握手してハグする。まるでショーの一員になったような嬉しさでワクワクしてきた。
今回の「トーテム」は、地球の創生から人類の誕生と進化をテーマに、色鮮やかなコスチュームと音響で繰り広げられる妙技の連続で、観る者の息をもつかせない。さながら人類の進化に立ちあったような深い感動を覚えた。これは相当な鍛錬を極めたと言えよう。
演技者の芸とステージが、観客を惹き付けるのは、日本の舞台も同じではなかろうか。建て替えられ、3年前にこけら落としをした歌舞伎座。ここの5階にあるギャラリーを覗くと、舞台で使用される小道具や大道具を始め、駕籠に小舟そして馬、さらに黒御簾や花道まで体験出来て、すっかり役者になった気分だ。これで衣装さえあればとひとりごちしてみる。
五月の歌舞伎公演は團菊祭であり、特に夜の部の最初は、人間国宝二人の2歳になる孫が初お目見えとなった。数十年後には、父や祖父の名跡を継ぐことを知ってか知らぬか、きょとんとした姿に、祖父たちの方が緊張していたように見えた。一階ロビーには、出演者の奥さん方の和服姿もあった。
この夜の極め付きは「男女道成寺(めおとどうじょうじ)」で、紀州の道成寺に伝わる伝説を題材とした彩り豊かな衣装と華やかな楽曲の舞踊である。女形の白拍子と男役の狂言師が、自在に踊り舞う姿に見入っていた。役者は、身内に何があろうと舞台でそれを表わさない。後日、ニュースで知ったのが、その時に踊っていた役者の奥方の病状であった。
◎プロフィール
〈このごろ〉運転免許証の更新は、今回も優良講習であった。次はまた5年後、その時は70を越えている。さて、幾つで返上しようか・・。