流れる・・
2016年10月17日
京都府南部と八幡市を挟む木津川に掛けられた上津屋(こうづや)橋は幅3メートル、長さ356余メートルに及ぶ日本最長の木橋であり、昭和28年に完成してから今日まで台風など増水の度に流されること20回を超え、別名を「木津の流れ橋」と呼ばれている。
河川敷は茶畑が広がり周りに人家や電柱がないことから、映画で大名行列や合羽姿の旅人が行き交う橋として知る人ぞ知る格好のロケ地。時代劇ファンを自認する私も一度は歩いてみたいと思っていた。
映画全盛期から京都は時代劇の撮影場所が多く、昨年の夏に巡った大覚寺と大沢池、今春に訪れた東映太秦映画村など場面の中に見つけるのも楽しみ方のひとつ。ましてそこが自分の眼で見た景色であればなお更に嬉しい。
この秋、早朝の京都駅から電車を乗り継ぎ30分で八幡市駅に着く。ここからバスで15分ほど揺られると件の橋があった。流れ橋が写る幾多の映画で、美空ひばりさん主演の東映映画「新蛇姫様 お島千太郎」(昭和40年)は、巻頭とクライマックスでこの橋がふんだんに登場し、そこに主題歌が流れる。
八幡市に行く前夜、大阪は上本町にある商業施設YUFURA6階の劇場にいた。大阪新歌舞伎座シアターコンサート「美空ひばりスペシャル~ひばりが翔んだ日々~」・・唄っているのは舟木一夫さんである。昨夏、京都南座で作曲家の船村徹作品を聞いたのだが、今年は一人の歌手に特化した曲目で構成され、会場に響く歌声は五十数年のキャリアに他ならない。
ひばりさんのヒット曲やマドロスものが海の風景を彷彿させ、後半は和服姿で登場し股旅物など日本調の曲を歌い上げるとき、あたかもひばりさんが舞台に降臨したような錯覚に陥ったのは私だけだろうか・・。そして「お島千太郎」のイントロを耳にした瞬間、思わず自分の膝を打つ。レコードだと間奏のセリフは、ひばりさんの相手役だった林与一さんだが、三味線の音に乗せた舟木さんの語りに拍手する手は一層力がこもる。
余韻に浸りながら京都の宿に戻り日付が変わって渡る流れ橋、その長い橋板を踏みしめ川の流れに目を遣ると、昨夜の歌声が聞こえるような気がしてひとりごちた。
◎プロフィール
〈このごろ〉旅先から長谷川宏和さんのFMラジオ番組へ中継レポートをしている。一昨年の関ヶ原、昨年が松本城、今年は姫路城であった。