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エッセイSP(スペシャル)

十二人のミュゼ in キタラ

冴木 あさみ

2016年12月 5日

 今月の自分へのご褒美は「高嶋ちさ子十二人のヴァイオリニスト」のコンサートだった。日頃たいした仕事をしているわけではないが、寝るたび起きるたび、確実に残りの人生は短くなっている。還暦までまだ数年あるが、年を取るごとに一年が早く過ぎるのだから、心構えに早すぎるということはないだろう。生きる上で、先の大きな目標も大事だが目先の小さな喜びの充電は明日への動力となる。車に例えるとエンジンオイルとガソリンってところかな。
 そういうわけで札幌の施設で一番好きな場所、札幌コンサートホールキタラで生の音楽に触れることが私のご褒美であり、一カ月分の芥を振り落とす心の洗濯であり、明日の自分へのエールである。
 高嶋ちさ子は、導火線の短い肉好きぐらいの知識しかなく、コンサートは初めてだった。私のような素人にはオーケストラが一番分かりやすく、ピアノやフルート、ギターなど単一楽器の独奏を二時間聴ける能力は残念ながらまだない。しかし、十二人のヴァイオリン演奏なら迫力もあるだろう、しかもミューズ(音楽の女神)の文字に魅かれ、チケットを買った。
 高嶋さんはテレビでの印象通り。トークで会場を笑わせたかと思えば、直後に力強くも繊細な演奏で会場を魅せ、私の感情の振り子は大きく振られっぱなしだった。
 単に名の知れた演奏家として各地を回っているのではない。ヴァイオリンの魅力を多くの人に伝える伝道師高嶋ちさ子とも感じた。側を固めるユニークなメンバー、ミュゼ達にステージ上で演奏技法も披露させる。様々なテクニックを披露したうえで「次の曲ではこれら技法が使われるから、皆さんただボケッと座ってないでよく見ていてくださいね!」に、会場大笑い。高い料金を支払って聴きに集まった客に向かって舞台上からボケッとしなさんなと言い放つ演奏家は他にいないだろう。二時間の立ち仕事は重労働でしょうけれど。
 気の短い彼女の言葉はキツイと敬遠する人もいるだろうが、飾らない媚びないコメントはさっぱりしていて私は好きだ。彼女の子供たちへの独裁的な厳しいしつけに対する世間のバッシングに落ち込んだそうだが、ただ一人佐藤愛子だけが賞賛してくれたとか。九十を過ぎてなお現役作家である佐藤氏は『九十歳なにがめでたい』で再ブレークした私の好きな「怒れる作家」である。一億総批評家ならぬ批判家となったネット社会。如何に嫌われないように振舞うか、ということに現代人は翻弄されている。ぶれない正義をもって進む人はひときわ輝いて見える。

◎プロフィール

寒いと肩こり、気圧が下がると睡眠障害。クリスチャンではないけれどクリスマス
の明るい賑わいは必要ですね。

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