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エッセイSP(スペシャル)

美しき姿勢から

梅津 邦博

2016年12月12日

 岐阜へ所用と観光を兼ねて母を伴い、千歳空港から中部国際空港へと向かう。
 空港14番ゲートの受付テーブルスタンドに女性が二人いて男性も更に二人いる。その少し後ろ中央に一人の30代くらいの客室乗務員がスッと立っていた。胸のネームプレートには「M」と記されていた。
 母は歩くのが弱いところがあって車椅子での優先搭乗となる。ぼくは押してゲートを過ぎてその乗務員の横を通る時、ハッとなってしまった。
 彼女のそろえた脚は踵の位置で前後に6センチくらいだかずらしてあり、両掌は腹部の辺りで逆ハの字に開いたまま重ねて顎を引き、眼はキリッと前方を視ていた。下唇を下りたくぼんだ辺りに何かの意思でもあるような気配がする。それはどんなものだろうかとイメージがぼくの眼の裏側にうかびかけてきたが、すぐに消えてしまった。その立ち姿は頚椎から上背でカーブし腰へとインカーブしてそうして下肢からさらに足へと、身体を支える脊柱ラインが精神と共にしなやかに連なり、キッと通っている感じがしている。
 そういったことが一瞬のうちに伝わってきて、ぼくの頭から足元まで真っ直ぐな気脈のようなものが目覚めさせられてきた気がしてならないのだった。
 ボーディングブリッジへ向かおうとしてゆっくり一歩一歩と歩みを進め、彼女は、母とぼくと伴にブリッジをゆっくりと歩いて案内して下さる。一言二言と会話があった。
 「北海道は寒いですね」
 やわらかい微笑みを見せている。
 「そうですね。どちらにお住まいなんですか?」
 「東京です。」
 「あぁ、今はまだ暖かいですよね」
 ブリッジ内はさらに微笑みからくる明るさがあった。

 11月2日、JAL3106便は、真っ青な日本上空を飛行しつづけ、新潟上空辺りなのか遠くに佐渡が見える。少し揺れつづける機内とジェットエンジンと風切りとのゴォーッという音が、自分の今までの過去へと意識が向かって行こうとしていた。生業や人間関係などにおいて、至らない生き方もあったことを想い出させる。長い時が過ぎていったのだ。
 ともあれぼくは、出発前の客室乗務員が屹立しているそのありように動かされて機内へといざなわれて行った。世界は、遠く神々の時代からの歴史を泳ぎながら今日まで来ているのだった。彼女の美しい姿勢と知性というものは、穢れて壊れてきている現代にあって、ひときわ輝いて見えるのだった。
 しなやかな気質と空間が与えられた空の旅になっていた。天地開闢以来からの遙かなる九天の大空と美しい日本の世界があった。ぼくは満ち足りた時間を飛びつづけていた。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)

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