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エッセイSP(スペシャル)

再 会

吉田 政勝

2017年4月24日

 浅田真央さんがフィギュアスケート競技から引退するとテレビが騒がしく報じている朝、私の胸を占めていたのは別のことだった。昼に高校時代の男友だち3人で食事し、楽しい話が聞ける期待で心がときめいていた。
 春の陽光を浴びて、駐車場に車を停め、イタリアンの店に入った。先に警察官だったAがテーブルに肘をかけて、手をあげた。彼は定年前に辞職し、今は別な仕事をしている。Aの向いの右側の席を空けて座った。私は左耳が難聴なので右側にBが座るためだった。
 すぐにBが店に入ってきた。AとBは36年ぶりの再会で、私はBとは時々会っていた。彼の店のデザインの仕事をしたこともある。
 メニューを見て私はパスタにドリアのサラダ付きを頼んだ。Bは食べながら自らの半生を話し始めた。
 以前、Bは二十歳すぎに炭坑で働いた。やや小柄な体躯で、危険な炭坑でなぜ働く気になったのか?。心に封印してきた昔の傷や苦労を語りだした。
 Bには彼女がいたが、ささいな誤解で別れた。傷心の彼は知り合いが暮らす街を訪ねて、そこの炭坑で働く決意をした。収入が当時の会社員の倍だという。
 「坑内で掘削したばかりの石炭をトロッコに積んでいると、頭上から落盤してヘルメットを直撃したことが何度かある。怪我よりもガス発生が恐い。警報機が危険濃度を示すと坑内員に退避命令が出される。普段は歩きもおぼつかない老坑夫は素早く走って逃げ出すからね」とBは笑いながら話す。
 「ある日の昼ごろ、大規模なガスが発生し、救護隊が坑内に入り倒れた人が次々収容された。火災も発生し救護隊も二次災害に巻き込まれた」そう話すBは夜番で事故を免れたのだった。
 Bは転職し、営業や管理職として成果をあげたが、彼の率直さが理不尽な不遇を招いていた。
 4時間弱の気の置けない友との再会だった。私は隣の2人の主婦らしき人に「シャッターを押してもらえますか…」と頼んだ。3人はカメラに顔を向けた。
 店を出たBが「今度、焼肉でも食おう」と提案した。Aも私もすかさず「ああ、いいねぇ~」と返事した。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)
春はランチ会、花見などがふえる。下戸なので飲酒よりも話題が豊富な人と会うのが目的になる。平成26年より勝毎通信員。

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