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エッセイSP(スペシャル)

歳月・・

たかやま じゅん

2017年6月19日

 東武日光駅からバスに乗り、5分で朱塗りの神橋に着いた。暫く進むと、小雨の中に楼門が見える。傘の花が咲き多勢の子供たちの列があった。小学6年生の修学旅行だそうな。この光景から50数年前の自分にタイムスリップする。子供たちと同じ歳に、日光東照宮に来ていたのだった。
 修復されたばかりの陽明門、名人上手の眠り猫、薬師堂の鳴き龍を巡る。だが初めて見たときと趣が違う。膝を落とし子供たちの背丈と同じ目線にすると記憶が甦った。裏手の徳川家康廟まで長い石段を上がると息切れをしてきた。雨に濡れているので、下りは足を踏み外さないようゆっくりと一段一段踏みしめる。そんな私の脇を子供たちが「こんにちは」と上り下りして行く。きっとあの日の自分もこんな姿だったと苦笑してしまう。
 境内の回廊を往く一団が目に入った。先頭の衣冠束帯姿は、徳川宗家18代目の徳川恒孝(つねなり)さんである。その後に従う背広姿の人たちは神妙な面持ちを漂わせていた。先頭の白いプレートに墨で「柳栄会」とある。これは、徳川の譜代大名と旗本の子孫が集まる会だった。江戸時代、将軍が日光社参の際は、大名や旗本が最大で13万を超えたとものの本にある。丁度、春の例大祭にあたっていた。
 昼を境に雨は小やみとなり、街頭放送から鏑流馬(やぶさめ)の神事が披露されることが流れると、参道に設けられた馬場に人が集まって来る。鎌倉時代より馬術、弓術、礼法を司る小笠原流による技であり、31世当主の小笠原清忠さんが本部席に陣取ったことが伝えられた。登場する装束や馬具の一つ一つに解説がされ、やがて馬が疾走すると目の前に「インヨーイ」と射手の掛け声が響き、馬蹄が砂をけちらし通り過ぎた。3つの的を射るのだが、外れると観客から「あ~ぁ」とため息が漏れる。宗家嫡男の小笠原清基さんが3つの的を射た瞬間は、「わ~ぁ」と大拍手が起きた。こんな体験はめったになく、昼食を摂るのも忘れて見入ってしまった。
 残り時間をバスで中禅寺湖に向かったが、いろは坂は霧に覆われ何も見えない。観曝台からの華厳滝も霞んで冷気が伝わってくる。ここでも子供たちは瀧音に負けじとばかりに歓声を上げていた。この子たちが歳月を重ね、今の私の年でここを訪ねたらどんな風景を見るのだろうか。そしてその頃、私は・・。

◎プロフィール

〈このごろ〉上野公園内で昨年5月に若冲展を観に来た。今年5月は茶の湯展・・その人波の中に私がいる。来年の展示が愉しみとなった。

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