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エッセイSP(スペシャル)

息子と母との会話

梅津 邦博

2017年7月10日

 某会社社長のK氏と赤ちょうちんで「福司」を飲みながら、人生のいろんなことについて話をしていた。彼は体格の良い存在からして堂々たる雰囲気があり、いつもニコニコして悪口や批判など言わず、誰からも好かれるような得な人物である。どうしたらそういう人間になれるのかなと思うのだが。
 とにかくいつもニコニコしているので、
 「あのさ、宝くじ当たっていない、5千万円くらい?…」
 と聞いた。やはり彼はニコニコしながらゆっくりと頷いて、
 「…どうしてそんなこと知ってるの」
 と、聞きながらそしてゆっくりと頷くのだ。
 「やっぱりそうか、そうとしか思えないんだよなぁー」
 とにかく明るく楽しく、そのうちに話が変わった。
 「あるときオレのオフクロが高齢だか
ら施設に入る時に、『このお金預かって
くれる?』というので、いいよと預かっ
たんだよ」
 「じゃ、ちゃんと取っておいてあるわけだ」
 「それが少しずつ減っていくんだよ」
 「え、なぜ?」
 「毎月、入所料を払っているからだ」
 「あぁ、そうか」
 「それでこないだ行ったら、『まだあのおカネあるのかい』と聞くから、毎月少しずつ減ってるけれどあるよ、と言ったんだ。それで別の日に行くときそのおカネを全部持って行って、ベッド上に座っているオフクロの両手に持たせてオレと女房が両側に並んで立っているところをスマホで撮ってもらったんだ」
 ぼくはいい話だなと思った。
 「で、オレは言ったんだ。このカネがなくなるときはアンタが死ぬ時だよ。そしたら、『無くなってもまだ生きていたらどうすんのさ』と言うから、そんときはオレが首をしめてやるからね、と言ったらお互いしばらく笑っていたよ」
 スゴイ話だなぁ、と思った。
 「…で、オレはさらに言ったんだ。『これっぽっちだな…。アンタは、オヤジは酒飲んだくれているとか浮気しているとか、ああだこうだとオヤジと何度も言い争ってケンカしていたよな…そうしていまこれっぽっち。これがアンタの人生なんだよ。これっぽっちだよ』」
 そしてまたお互いに長いこと笑い合っていた、と言った。
 彼一流のきついジョークだが、母親に対する深い愛情が伝わってくるのだ。
 彼は高校を卒業し、農家を継ぐのが嫌で、親の意に反して同じ村の好きだった娘と連れ立って帯広の街へ出てきた。いくつかの会社に勤めた後に独立し、設備関係の会社を立ち上げて今日まで至っている。さまざまな苦労を重ね、社会を、人を見てきて、人生を見つめているのだった。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。
北海道新聞コラム「朝の食卓」執筆者。

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