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エッセイSP(スペシャル)

レベル1

冴木 あさみ

2017年7月 3日

 南の島でのんびりしたい。ここ数年、スマホの待ち受け画面には海の上のバンガローの写真。その願いは、よんどころなき所用ができたことで叶うこととなり、六月吉日バリ島へ行ってきた。
 しかし、正直なところ浮かれ気分よりも緊張の方が大きかった。東南アジア、言い換えて、食中毒の危険性のある場所への旅行は初めてなのだ。その土地の美味しいものを食べるのは旅の大きな楽しみなのに、(これ、大丈夫かな?)という疑心暗鬼は、どんなものでも不味くする。火の通った食品を選んでも、添え物のサラダや果物などをつい口にしてやられてしまったという話も聞く。ホテルの食事は安心だけれど、インドネシア料理一皿とグラスワイン一杯&チャージで一人五千円というセレブ価格。ハエが飛び回る街角の食堂の三百円定食の方が絶対に美味しいだろうが、食の安心安全をとってしまうのは純日本製のひ弱な胃腸ゆえ。
 それどころか世界中がテロの恐怖に晒されていることの方が問題は大きい。外務省海外安全ホームページを開くと、国別、地域別の安全情報を確認できる。レベルは4つ。レベル1「十分注意してください」、2「不要不急の渡航は止めてください」、3渡航中止勧告、4退避勧告と続く。観光地として親しまれているバリ島はレベル1。中東での勢力を失いつつあるISが、イスラム教国家インドネシアに拠点を移しているという情報がある。バリ島は宗教的には特別で、島民の九十%がバリ・ヒンドゥー教などだが、九十年代からイスラム教徒も増えてきているらしい。十五年前には死者二百人を超すテロ事件が繁華街で起きている。
 旅行者の安全確保はバリ島をリゾート地として存続させるため必須である。ホテルのゲートには遮断ポールが設置され、警備員が全車両のトランク内の点検をしている。最高級のホテルが立ち並ぶ新しいリゾート地は、外国人旅行者以外がエリア内に侵入できないよう町の入り口にゲートが設けられているとのこと。
 私が泊まったホテルは広大な敷地の中に6棟の建物があり、いくつものプールと、テニスコート、ヘリポートまでもがあった。気ぜわしい外界と隔絶された静謐な時間。長い人生の数週間をここで費やすのも悪くはない。午後2時のチェックアウトの後もホテル内で安心して過ごせるよう、シャワーブース付きのゲストラウンジが用意されている。リピーターが増えるのは当然だろう。
 鳥のさえずりに目覚め波の音に癒され、日常をすっからかんと忘れることができた。帰国後これまでの待ち受け画面に感謝をし、今は雨に濡れた北欧の街の写真に切り替えた。さて、ここを訪れる機会は得られるだろうか?

◎プロフィール

さえき あさみ
インドネシアの言語は猫のあくびみたいな甘い響きで耳に心地よい。この国が、いえ、世界が平和でありますように。

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