夏の空の下で
2017年8月21日
青い空のかなり高いところで、薄い繊維状の巻雲が天女の羽衣のごとく広がっていた。明るく感じられて見えるのは、自分がそれなりに明るくなってきているからそう思うのだろう。
一昨年の春頃からさまざまな問題を抱え、トーンダウンしてストレス状態だった。精神的にフラフラし、異常な状態だなと意識していた。酒を飲んでも音楽を聴いても本を読んでもどうしようもなく、これはもしかして危ないのかなとも思っていた。なぜそうなるのか原因をさがして突き詰めると、自分はワガママであるということに到った。
「拘るな、気にするな、解き放せ」
と思い、のべつまくなし自らに言い聞かせていた。ストレスの主たる原因は人間関係である。気に入らないのがいると腹が立ってならないのだが、そう思う自分こそが最低なのだと自分を責めていた。
そうして「人は生きているだけで素晴らしいことだ」となれば、他人が否定する権利などないだろう。人のことをとやかく言える自分かと思う。気が付けば、いつしか心が軽くなってきた。
ストレスは何も人間関係ばかりではない。自身の健康問題からも悩まされてゆく。やはり一昨年の初夏。朝方、目覚めると下腹部に軽い鈍痛があり、起き出すとそれは消える。毎日繰り返すのでいったい何事かと不安が増幅し、ほっとくのは良くないだろうから、病院へ行ってきた。その結果、排尿を力んでしまう癖からくることが原因だった。抗生物質を服むとよくなりますからと言われ、身体の力が抜けて解放されていった。
毎年、大腸便潜血検査は異常なしなのに、今年春の検査結果は「陽性、要精密検査」という文書が届いて驚いた。掛かり付けの消化器内科へ行くも、夕方5時で診察は終わっていた。通路に現れたH看護師に事情を話したら、眉間に2本の縦皺を寄せて怒ったような深刻な顔をして、
「内視鏡検査を受けたことないの? 早く検査に行ってください!」
その、「早く」というところを早口で言った。2カ月先まで予約があって出来ないので、他所で受けて下さいという。オレはそんなに大変な状況なのかと益々落ち込み、酒を断って御飯も少量になってしまった。もし良くない状態だったらと思うと、更に参ってしまった。
知人から紹介された「A医院」で、スペシャリスト女医による大腸内視鏡検査を受けた。モニターを見ながら「腸内環境はとてもきれいです」とのこと。そして小さなポリープが1個見つかって摘出してくれた。後日、結果は良性だった。
夏を迎え、気分がウキウキしてきた。もう小さなことには拘りたくないな。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。
北海道新聞コラム「朝の食卓」執筆者。