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エッセイSP(スペシャル)

鍵が掛からない

梅津 邦博

2017年9月11日

「あれ、おかしいな…」
 いったい何がなんだか分からない。空港駐車場に着いて車から降り、スーツケースとセカンドバッグを出し、キーレスキーも嵩張るから家のカギ類だけ外して本体をドアポケットに入れて閉めた。そしてドアのキーボタンを押したが掛からない。ドアを確認し、何度もキーボタンを押すも掛からない。 

 どうしたのか、変だな。ドアを開けてチェンジレバーの位置およびエンジンキー穴の位置を確認して、再度ドアを閉めてドアキーボタンを押すも掛からない。ドアをまた開け、ともかくポケットに入れたキーレスキーの本体を取り出してスーツケースにしまい、各ドアを確認してカギを掛けてドアキーボタンを押すも掛からない。そのうちに、あれっ、と思った。さっき仕舞った本体に車のキーが付いていなかったことを思い出し、ますます変ではないかと思った。車のキーを車の下、座席の下、とくまなく探したが出てこないではないか。
 段々と体が熱くなって汗が滲み出てきた。腕時計を見ると、大変だ、離陸まであと25分しかない。改めて車の下、あちこちのポケット、セカンドバッグの中と急いで探すが、ない。時は刻々と迫ってきている。スーツケースに入れてあるキー本体を取り出す。手にしているキーレスキーが汗ばんできて握りしめているうちに、あ、と思った。
 「…カギは本体に挿し込んであるじゃないか!」
 そそっかしいな。でも考えてみれば、キーが入ってなくても本体を持ったままボタンを押せば、ロックが出来るに決まっているではないか。ドアポケットやスーツケースに入れたからだ。ちゃんと落ち着いてやれば何でもないことではないか。ハァーッと大きく息を吐いた。すぐにロックしてスーツケースを引っ張りながら走って行き、ギリギリで搭乗受付を済ませた。
 それにしても何かの折に探し物をすることがときたまある。車のカギはもちろんのこと、書類とか携帯とかどこに置いたんだかわからなくなる場合があるのだった。何かの感覚だかリズムだかにズレでも生じるとそういうことが起きるのだろう。近年そういうことが多くなってきているような気がしてならないのだが、年齢的なことなのか。いったい何なのだオレは、え、まさか…、冗談はよせ、と舌が鳴った。

 ようやく落ち着いてきた。旅客機が雲上に出ると、機窓の向こうは明るく真っ青な大空が果てまで広がっていた。前席背面の小さな棚を引き出し、メモ用紙と万年筆を用意して発表したい作品の下書きを書きはじめる。ペン先はスラスラと動いて心地良い。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。
北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」執筆同人。

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