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エッセイSP(スペシャル)

静かなる激情の夜⑴

梅津 邦博

2017年10月 9日

 6月第一土曜日の夜。さる研修会があった岐阜から高速バスでバスターミナル「バスタ新宿」に着く。早稲田在住の親友Mから携帯電話があって、「迎えに行きますから新宿で飲みましょう」と言ってきた。ぼくが東京で就職して、翌年に宮城から来て入社した二つ年下の彼とは、40年になる付き合いである。ぼくはその会社に入る前、北海道帯広から大都会東京へ行き、「新宿」に短い期間だがいたことがあって、懐かしさと複雑な気分がある。
 
 甲州街道を挟んだ新宿駅南口とバスタとの横断歩道の両側で、お互い手を上げて笑顔で合図する。彼に従いてスーツケースをガラガラと引きながら西口へと周ってゆく。彼が言う。
 「仕事の関係で使っているちょっと知っている店へ行くから」
 西口駅前を過ぎて靖国通りを渡り、左側の西新宿七丁目へと向かった。
 とある海鮮居酒屋に入る。仕事帰りのサラリーマンたちで賑わっていた。早速ビールで乾杯し、刺身やサラダを頂きながら彼の近況話を聞く。
 「オレはウメヅ先輩にはいろいろ教えられて本当に感謝しています」
 「何を言ってるの、アンタに教えるようなことなどしてないよ」
 「いや、当時オレは会社で調子に乗っていて、ウメヅ先輩に生意気なことを言ったんだ。それで態度が悪いと厳しく窘められ、後に自分は間違っていたんだなと反省したんだ」
 彼は現在5度目の仕事で、自ら起業して創めた介護タクシー「A」である。もう七年目になり、大型ワゴン車を3台稼働させて多忙な毎日を送っている。営業したことがないのに、開業当初のあるときから不思議なことに仕事が急に増えてきたのだ。理由はわからなかったのだが、後に知ることとなった。
 当初の頃、ある御身体の弱い車椅子の方が、Aに病院への送迎依頼の電話をされた。Mはお客を乗降してゆくのだが、相手は「明るく礼儀正しく、実に親切丁寧な労わりよう」に驚かれ、以来いろんなところへ積極的に薦めて下さったのだという。素晴らしい話ではないか。
 そうしてMのところには錚々たる方々からの依頼も増えてきている。元総理や元大臣、大手コンビニ業界トップの御家族、大手食品メーカー会長夫人、俳優、タレント等々多岐にわたり、東京から青森や福岡あるいは京都ほか長距離往復も多い。
 
 彼は昔から、明るく素直で親切に対応する男である。従って発展しないわけがないだろう。商売は理屈や気難しさや偏屈さがあるようでは務まらない。下座が大切なのだ。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。
北海道新聞朝刊コラム「朝の食卓」執筆同人。

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