プライド・・
2017年12月18日
京阪電車の出町柳駅から鴨川の風に吹かれて橋を渡り、樹々が秋の彩りを始めた京都御苑に着くと、公家の邸宅が立ち並んでいたと伝わる一角に、平成17年に建てられた京都迎賓館がある。
地下の駐車場で空港同様のセキュリティ検査を受け、ガイドに従い樹齢700年の欅の一枚板で作られた正面玄関に移動。館内に入ると、廊下や広間、庭園の隅々まで平成の匠たちが施した伝統美の見事さに目を奪われ、写真に収めることすら忘れてしまった。
木目の板の調和した並べ方に見慣れた感じが過る。家にある板戸と同じしつらえで、材質などは比較に及ばないが、宮大工の建てた緻密な技が身近にあった。和のやすらぎに包まれた私は、あたかも要人のようなゆっくりとした足取りになっていた。行事の際は、華道、茶道、料理などそれぞれの分野が、総力を挙げてもてなしにあたるそうな。これこそが京都人のプライドなのかもしれない。
賓客を受け容れるもう一つの建物を東京で訪ねた。JR中央線の四ツ谷駅で下車し、枯れ葉の舞う舗道を往くと、長さ約160mの鉄柵に囲まれた正門の向こうに、石壁と緑青の屋根が壮大な佇まいをみせている。明治42年に、東宮御所として造られたわが国初の洋風宮殿となる赤坂離宮で、昭和49年から国の迎賓館となり、平成21年には国宝の指定がされた。
ここでも手荷物検査とボディチェック後の入館となる。案内の人から主なところの説明があり、白い大理石や真紅の絨毯、金色の燭台や天井の大絵画に圧倒された。四季の花鳥をあしらった七宝焼が額で飾られ、晩餐会が催されるホールには、三つの大きなシャンデリアが下がり、絢爛華麗な雰囲気を醸し出している。
江戸時代の紀州藩中屋敷があったところで、広々とした庭には砂利が敷かれ、花壇と噴水、周囲には松が植えられていた。国賓を迎える東西の施設が一般公開されたことで、人と物の技を見る機会に恵まれた。
このところの出来事で、次々と明るみにされる企業のものづくりへの脆さは、培われたプライドを何処へやってしまったのだろうか・・。庭師で桜守としても名高い16代目佐野藤右衛門棟梁の「若い人が先人の仕事ぶりに心打たれ、次代につなぐ技や精神は、日本の財産で文化だ」との言葉が、私のこころに響いてきた。
◎プロフィール
〈このごろ〉カレンダーを取り換えたのは、ほんの数カ月前のような気がする。間もなく新しいカレンダーにしなければ・・。