映画俳優的ドクター
2018年2月12日
朝方、尿意で目覚めるたび下腹部に鈍痛があった。病院がイヤでほっといて、気がヨワイぼくは天に向かって両手を合わせていたが、いつまでもほっとくのはよくないと思い、ガイドブックを調べ、さる病院へ行った。
なかに入るとそこは暗くてカビクサイ雰囲気がし、呼ばれて診察室に入ると現れた医者はまさしく昏い顔をして、ボソリ、ボソリ、と話すのだ。優しい説明などなく、来るんではなかったと後悔する。触診で「初期の前立腺肥大ですね」と言い、薬は出なかった。後日、前立腺血液検査の結果を訊きに行ったら、数値は0.60で全く問題ないと言われてどっと疲れが出てきた。
医者というのは、受診者に対して親切に詳しく説明しないような上から目線の人が多い。そんなんでは不安が増幅してしまい、二度と行きたくない。第一、重い雰囲気でゆっくりと話しかけられたら、いい気分はしないのだった。
良くなると思っていたのに、しばらくしてまたちょっと下腹部の鈍痛が出てきた。ふたたび気になって精神もフラフラしてきた。
そうして今度は、人伝に聞いていた「Sクリニック」へと向かった。明るい雰囲気の院内で気分がいい。自ら自覚症状を詳しく書いたメモを提出した。初めてお会いした若いSドクターは俳優の香川照之に似ているな。さらに雰囲気や身のこなしもどこかしなやかで魅力的な感じがし、そして何よりも明るくわかりやすく親切に話しながら接してくれるではないか。採尿と採血をし、ドクター自らが超音波検査などをしてくれた。
「これね、鈍痛はゼンリツセンエンショウですね。オシッコのとき気張ったりするとなるんですよ。気張らないようにしてやってください。抗生物質薬を服用すれば良くなりますから、大丈夫ですよ」
ぼくは身体の力がふわふわと柔らかくなってきた。
それにしてもあのドクターはなかなかおしゃれ感のある男だな。待合室にて会計するのを待っていると、18㍍ほど前方の左側にある診察室から現れて処置室を通って右側の検査室へと、彼は明るい表情を見せながらまるで何かの希望のさなかにいるように見えて粋な身軽さで走って行った。
「オッ、カッコいいな」
なんだか外科ドラマに出演しているスーパードクターみたいだ。ひょっとして医大では演劇部にでも入っていて役者だったのかな。
けっきょくぼくは前立腺肥大ではなかったのだ。ストレスと排尿の癖で炎症が生じて鈍痛が起こり、尿も溜めづらくなることで膀胱が小さくなっていくということが原因だった。以来、ストレスや癖を改善し、元へと戻っていった。S先生の指導に感謝していた。今度先生と一杯飲りたいな。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。