見える・・
2018年4月16日
新聞の文字が見え難くなり、目の前に霞みも・・。車を運転することから眼科で精密検査を受け「老人性白内障と違い、もともと水晶体が光りに弱い」と診断された。
小学生の頃、日向に出ると目が痒くなった。目医者に「瞳が茶色なので黒メガネを掛けるように」と言われ、校庭の朝礼で恥ずかしかった思いが甦る。成人してからサングラスを手放せず、見栄っ張りの私はレイバン・ランセルなどブランドにこだわり、街で某俳優に間違えられたのを思い出した。映画好きでテレビっ子、おまけに本の虫なのも、眼を酷使してきた要因なのかもしれない。
医師の説明では、20分程度の手術で済み、痛みや怖さも少ないそうな。右眼から左眼の順に日帰りの日程を決める。執刀は、開業歴17年の「ふじた眼科クリニック」藤田南都也院長で、画像での解説と質問にも丁寧な答えがあり、淡々とした語り口に安心感を覚えた。
その日、手術台に上がり医師から「緊張せず大丈夫ですよ」と言葉があったのだが、顔にマスクが掛かると、つい肩に力が入ってしまう。「目を洗います」「悪いところを取りました」などの声が聞こえてきた。目薬を指したときのような光と水の中にいるようで、薄っすらと動く指が見える。「問題なく終わりました」と言われ、マスクが外されるまでが、とても長い時間に思えた。看護師に訊くと15分程度だとか。前後を含め5時間、右眼は眼帯がテープでしっかり抑えてあり「洗顔や洗髪と外出は控えて下さい」と言い渡される。
翌日の通院で眼帯が除かれた瞬間、診療室の明るさに思わず「うぉッ」と声が出た。「1週間は保護メガネが必要です」とのことから眼科推奨のアイケアグラスが、スピードスケーターのメガネみたいで格好良くて気に入る。一日3回、5分間隔で指す3種類の点眼薬を処方され、次の通院で視力は1・2まで回復、1週間して洗顔と洗髪、外出も解かれた。6日後、左眼の施術は二度目で分かっている筈なのだが、妙に緊張してしまう。
視力が戻り、改めて開く色彩豊かな伊藤若冲の動植綵絵は、赤、青、白・・鮮やかな色のマジックが浮んでいた。心の中で「生まれて初めて物を見た日は、きっとこのようだったのかな」とひとりごちる。
数日後、髭をあたりながら鏡に目を凝らすと、こめかみにシミのついたような顔があった。「えッ!」と叫んで移した視線の先には、幾筋もの細かいシワのある手が見えてきた。
◎プロフィール
〈このごろ〉雪山が消えスッキリする道端で、風に撒かれる麺カップや菓子袋、一番目立つ吸い殻と空き缶。残したのはカラスなのか人なのか。