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エッセイSP(スペシャル)

梅津 邦博

2018年5月14日

 新年を迎えて極寒の毎日を送っていた。時に雪が舞い、降り積もるたびに除雪をする。家の前、西側、裏側、と広くて大変なのだが要領よくやる。とても全部きちんとやれるわけではない。
 生業は売り上げが落ちて大変だ。1月や2月はそういうものだなんて言っていられないのだが、仕方がないとも言いたい。はっきりいえば努力不足には違いない。極寒は2月中旬頃がピークのはずだが、今年は早春の気配がなかなか現れず、陽射しも明るくならずに厳しい寒さの日がつづいていた。
 母がある日の夕方、「病院へ検査に行ってきた」という。心臓が少し肥大していて精密検査を受けるように、といわれて帰ってきたのだと。どういうことか。知識がないために不安がもたげる。肥大って何、危険なのか? 精密検査するほどそんなによくないことなのかと不安が大きくなる。90歳になったばかりの母だが、今日まで大した病気も手術もせず、到って元気で、車の運転も長距離を走っていて平気なのだ。知り合いなどはまだ運転していると聞いて、「え、ホントなの、すごいねぇー」と10人が10人とも驚いている。
 気になってしょうがない日々で時は過ぎてゆく。肥大はそれなりに大きい人はかなりいるものだということがわかった。母は狭心症だった。2度の心臓カテーテル検査手術を無事に済ませ、4月上旬に退院したことでとりあえず安心した。

 十勝管内をあちこちへ営業してゆく。いつもの春と違って仕事が低迷して焦りだしてゆく。とうとうゴールデンウィークを迎えた。気温はいつのまにか上がってきている。ぼくにとってはロンリーウィークになってしまった。
 帯広市内もたくさんの櫻の蕾がぷっくりと膨らんできて、例年よりも早く27日に開花宣言が出され、28日には満開と発表になった。ぼくの家の前に芝生の分離帯があり、それを手前は左へ、反対側は西へ、とそれぞれ2車線の一方通行に挟まれており、車が途切れたのを見計らって渡って入る。1区画の分離帯には10本だかの櫻の樹がある。中でも家の正面に位置する櫻が堂々と見事に咲きあふれて枝ぶりとともに美しい。
 見上げる櫻の遙か上の青い空から陽の光がふりそそいでいた。そのあふれんばかりの花びらの、どこか楚々とした風情にあって心地が静かになっていた。吹き抜けるゆるやかな風が有情無常を伝えているような気にさせられる。万葉の国やまとの光と風がこの北海道十勝の地にも香っているような思いがしていた。やがて櫻は泣くようにして散ってゆくのだろうか。ひとつひとつの櫻を観て廻り、自然、季節、時を感じてたゆたっていた。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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