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エッセイSP(スペシャル)

アニバーサリー

冴木 あさみ

2018年6月 4日

 札幌大通り公園を歩くと甘い香りが漂ってくる。札幌の市木ライラックが咲き誇っている。濃い紫、薄い紫、ピンク、白。風に揺れ香が流れる。さっぽろライラックまつりは終了したが、6月上旬までライラックの花は見られそうだ。
 市内を歩くと随所に『北海道一五〇年』の文字が目に入る。かつて「蝦夷地」(異民族の住む地)と呼ばれていた北の大地は、一八六九(明治二年)年八月一五日に太政官布告によって「北海道」と命名された。名付け親は明治にかけての有名な探検家、松浦武四郎。ロシア勢力が蝦夷地を狙っているとの危機感から、松浦は自ら蝦夷地に赴き、調査し江戸幕府に報告をした。六度に渡る調査の中で松浦は先住民アイヌとの交流を深め協力を得、彼らの文化もまた紹介している。
 『未来へつなぐ、みんなでつなぐ。2018年、北海道は命名150年』
 事業実行委員会はこのスローガンを掲げ、道内外で様々な事業を行い大きな節目の年を祝う予定だ。「先人から受け継いだ財産を次世代に繋ぎ、北海道の多様な魅力を世界に広げよう。そして、これからの五○年へ向けて新たな一歩を踏み出そう、北海道!」ということだ。
 十年ほど前、網走市の小さな資料館を訪れたことがある。縄文時代に人が住んでいた証拠となる遺跡モヨロ貝塚館。五年前改装されるまでは、まさに掘っ立て小屋と言ってもいいほどの記念館だった。中には貴重な発掘物が展示されていた。ダウンコートを着て断熱材のしっかり入った住居で生活していても厳しいと感じる北海道の冬。よくぞ人が住んでいたものだと、湿気のある記念館の中で身体が冷えた記憶が蘇る。ところが北海道に人が住み始めたのはさらに遡って旧石器時代というから、人間の計り知れない強靭な生命力を感じると同時に現代人の弱体化は何たることかと嘆く。
 出生率低迷のまま日本は多死社会へと突入する。人口減少による地方市町村の存続危機。交通機関の撤退、縮小。北海道新幹線の札幌延伸による経済効果は果たしてどの程度見込めるのか、負担を抱えるだけにはならないか、十年先への期待値さえ低いというのが本音ではなかろうか。数えればいくつも出てくる不安要素に憂うことは多いけれど、先人から受け継いだ開拓魂のDNAの力を若い人達に発揮してもらいたいと願うばかりだ。命名二〇○年の北海道の姿を、残念ながら私は見ることはできないけれど。

◎プロフィール

いい季節。歩くのも楽しい。海外からの観光客も増え、街中で様々な言語を耳にする。私もどこかへ旅に出たくなる。

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