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エッセイSP(スペシャル)

溶ける・・

たかやまじゅん

2018年8月20日

 5月下旬、福岡空港から地下鉄で博多駅までの数分が汗だくとなった。JRに乗り、佐賀駅で市営バスに乗り換え、佐賀城を目指す頃は3本目のハンドタオルを出す。降りる時、私を見た運転手が「今日から佐賀は梅雨入りです」と告げる。
 この旅は、肥前名護屋城・唐津城・吉野ヶ里遺跡、帰りに福岡城を巡るので天候が案じられた。幸い滞在した四日間で傘を開くことはなかったが、どんよりとした空の下で5万歩。毎日のTシャツがびっしょりと濡れ、早めにホテルの大浴場に浸かって身体を厭う。
 6月初旬、札幌市内で音楽を聴く会に参加のため、大通駅で地下鉄を待っていると、蒸し暑さに襲われた。会場に着くなり水を3杯飲んで椅子に座り、生バンドの演奏が始まったまでは覚えている。喧噪の中で気が付くと5曲目だった。ただ頭の中はスッキリしていて、周りから「熱中症では」と言われた。北海道は梅雨がないとされてきたが、この湿気に閉口したのは私だけだろうか。
 7月中旬、連日のニュースで「今までにない猛烈な暑さが続く」と繰り返し流される。そんな中で、周囲に名古屋へ行くことを話すと、返ってきた言葉は「溶ける!?」だった。
 なぜこんな時期に・・それは名古屋城本丸御殿が6月に公開されたこと。名古屋ボストン美術館の閉館が10月と決まった。4月に杮落としされた御園座で舟木一夫さんが公演中である。この三つを叶えようと暑さ覚悟でチケットを抑えた。
 中部セントレアから名鉄特急で名古屋駅へ。舗道に足を踏み出した途端、高層ビル群から漂う生ぬるい空気は、10年前に居た名古屋とはまるで違う。いつもはホテルまでの7分を歩くのだが、停留所は二つ目であってもループバスなら酷暑を免れる。そして御園座までは、ホテルから5分も掛からない。ここで普段は被らない帽子とひんやりタオルが役に立った。
 冷房の効いた場内は、1300席が同世代で埋め尽くされて千秋楽を迎えた。舞台が熱気に包まれたことは言うまでもなく、旧知の人たちとの語らいや新たな出逢いは、暑さを突いて訪れた甲斐がある。
 所定通り満喫し、祭りの後のような充足感と一抹の寂しさを胸に戻ってみると、札幌は連日の猛暑日になった。どうやら、溶けるような暑さを私が連れて来てしまったようだ。

◎プロフィール

〈このごろ〉一年の三分の二が終ろうとしている。レギュラーのFM番組は12月まで構成した。文化トークショーは来年3月と7月が決まった。

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