夏が去ってゆく
2018年9月17日
晴、曇、風、雨、雪などの自然現象は大地において潤いなどをもたらす必要不可欠なものだが、度が過ぎると恐るべき事態を引き起こすことにもなる。今夏は6月から7月中頃までは曇りや雨の日々が多かった。その後は猛暑日も含めて8月初め頃まで暑い日が続き、過ぎると逆に夏が少し引き下がったような日々となり、そしてまた雨の日が多くなっていった。お盆を迎えて「おびひろ平原まつり」は最悪で、初日はそれなりであっても2日3日目は大雨で恒例の盆踊り大会は初の中止となった。
夏は太陽がいっぱいの季節である。青い空と陽射しが空間にあふれていなくてはならない。理想的なのはお盆頃に猛暑が少しぶり返し、まつり期間が過ぎてその後も暑さはそれなりに残暑として少し続いてくれたらいい。夏日は9月第1週くらいまであればいいが、北海道では難しいだろう。
8月18日土曜日。朝の曇り空は徐々に薄れて青い空が広がってきた。窓外を見遣ると、陽射しが満ちている。
「光だ! よし、街へ行こう」
長袖の白シャツに白木綿のタイトパンツとスニーカー、ショルダーバッグを斜めに掛けて出かける。街が、歩いている人が、明るくはずんで見える。ぼくの頭から肩周りに、太腿の辺りから足元へと夏がチリチリと躍っていた。夏はこうでなくてはならない。図書館、カフェへと行って調べ物や原稿チェックをする。そうして繁華街を少し散策してゆく。
午後に帰宅したが、夕刻になっても西日が明るい。これは再度街へ出かけなくてはならないな。
「オレちょっと街へ行くから。散歩だ」と母上に言う。
「晩ごはんはどうするの…」
「いや、とりあえずいいよ…」
「お前は何を考えてんだか。毎晩街へ飲みに行くんだねぇ」
「毎晩じゃないだろ、光を浴びたいから街中を歩くんだよ。ま、軽くちょっとね…それに新聞なども読まなくてはならないし…」
「そんなことそこら辺を歩けばいいでしょ」
母上は、使わない茶碗や皿などをさっさと取って棚に収めた。
ぼくは雨が降ると気持ちが沈んでしまう。太陽の光と青い空がないと生きていけない男なのだ。
「旧約聖書」の〈ノアの洪水〉によると、遠い大昔、神に義なるノアは、神より大雨による大洪水が起こるから船を作りなさいとの啓示を受け、避難の準備を始めるべく素直に船を作りはじめた。完成すると雨がポツリと降りだし、ノア一族が乗り合わせてさらにあらゆる生き物を番で乗せていった。やがて大洪水が海のようになって船が浮き出し、嵐の中を40日40夜にわたって漂流しつづけたのだった。その時の精神状態たるや、恐ろしさの日々ではなかったかと想像してならない。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。