卒業式のあとで
2019年2月25日
ジャニーズ事務所に所属するタレント(才能人)たちの中には、まれに苦労人がいる。
――アイドルに極貧時代があったなんて……、と母子家庭のTやひもじい生活のNの過去を知って驚いた。
アイドル顔でもなく若くもないが、極貧経験なら私にもあった。
卒業式のシーズンになると、わが中学卒業のころを思い浮かべる。勉強を充分にやったとは思えないが、3年間の新聞配達はやりとげた。
その体験を卒業文集に書いたところ、全文そのまま載った。他の生徒は思い出の要点を2~3行で紹介してあるだけだった。朝刊配達のために4時半起床で、寒い朝や大雪の日のつらい体験をつづった。辞めたい、と最初は弱気だったが、3年間、朝刊と夕刊を配りつづけたのだった。
卒業式の日に、卒業文集を配った後で、担任の三好政雄先生は「マッカン、卒業文集よかったぞ」と言った。親しい友だちは私をマッカンと呼んでいた。三好先生は、真顔になって、
「吉田とYは帰り職員室に来てくれ」
そう告げて教室を出ていった。
――何か注意されるのか。いや、Yは学級委員長をやった生徒だ。説教される生徒ではない、そう思って職員室へゆくと、先生は急用で出たという。友だち4人が校門で待っていた。友だちを追いかけていると、先生がバイクで戻ってきた。停まると「バイクの後ろに乗れ」と言った。
職員室に入ると茶封筒を渡された。福祉関係から生活困窮家庭に配られる援助金だった。一礼し受取ると職員室を出た。友だちの後姿を追った。
15年前、拙著エッセー集が出版された。ザ・本屋さん、ヒューマンリンクスの協賛とご支援だった。まっ先にその本を三好先生に謹呈できた。
社会に出て、デザインの仕事をしながら、文を書くことを続けてきた結果かと思った。その三好先生から電話があった。
「マッカン『卒業式の日に』を読んで泣けてきたよ……」それを聞いて胸がいっぱいになった。
――新聞にコラムを書き、新聞取材記者をやれたのも、あの作文で先生がぼくに助走を与えてくれたおかげです、と今も思っている。
◎プロフィール
(よしだまさかつ)
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