スコップ君・・
2019年2月18日
初めて雪に触れたのは、箱根山から下りてくる風花であり、丹沢山麓にあった母方の里に泊った朝、庭先に作られた小さな雪うさぎが記憶に遺る。それが毎日雪と関わるようになるとは思いもよらなかった。
終の棲家を北国で構えたことから雪との付き合いも10数年となり、今では雪について一家言持ち、カラスの鳴き声や鳥のさえずりさえも目安の一つで、自分の眼で視た雲の動きと風の流れや空模様で判断するようになった。気温によって絶えず雪質が変化し、太宰治の小説に書かれた「こな雪 つぶ雪 わた雪 みず雪 かた雪 ざらめ雪 こおり雪」を実感する。
年末から年明けに掛けてさらさらした軽い雪が舞い、2月の声を聞くとふわふわした雪に変わって、積もり難いとされながらひとたび着雪すると重たい。これが雪かきで腰を痛める原因であり、整形外科で腰の負担にならない方法や膝の曲げ方について教えを受けた。
ここに住んだ頃に比べて周辺は高層マンションが建ち並んだ。秋の風が強い日などはビル風で家の前に枯葉が溜まり、冬は雪の吹き溜まりが出来るようになった。京都では、お隣との境から半間(約90センチ)ほど入ったところまで掃除をする「門掃き」の仕来りがあるそうな。雪かきもこうすることで隣同士の挨拶から世間話もし易く、我が家の一角は共同作業でいつも綺麗になっている。
就寝前に必ず確認するのが、札幌市のホームページ上で夕方5時に発表され、市内を21のエリアに分けた「明朝の雪かき指数」と「除雪情報」のイラストである。これが冬期間のみ現れるキャラクターで愛称スコップ君なのだ。
寝入り端、地面からゴーっと響きが伝わって来ると「除雪車が通った」とおぼろげながらに分かる。ところが、この後で大雪になることも少なくない。夜半にふと目が開くとヒンヤリとした静寂の中に窓のカーテンが明るく、この時の外は雪明りの中でシンシンと一面の銀世界が広がり、三好達治の詩にある「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降り積む 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降り積む」を思い浮かべる。
やがて弥生の空が青さを増し、ひな祭りや東大寺二月堂のお水取りと太宰府天満宮から梅の便りが聞こえる頃、私の中には旅ごころが芽吹いてくるのだった。スコップ君よ、また次の冬で遭おうじゃないか・・
◎プロフィール
〈このごろ〉かつて映画館で70ミリ映画の大画面を味わっていた。いまはシネコンのIMAXシアターでクリアな大画面・大音響を堪能する。