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エッセイSP(スペシャル)

パン屋にて

吉田 政勝

2019年4月22日

 時々帯広へ出る用事がある。
 時間に余裕ができ、少し小腹が空いた時などは「有名な某パン店」に寄ることがある。3個ほど買うが、時には訪問先への手みやげにもする。
 いつも店内が混んでいる。トレイにパンを乗せレジで会計を済ませると、窓際のテーブルの席に着きおもむろに大好きなねじりドーナッツを食べた。
 お茶を飲みながら、ふと右のテーブルを見ると4歳くらいの女の子が一人で座っていた。
「あゝ、うまいなぁ……」と私はつぶやいて、ねじりを食べた。
 女の子は、こちらを見ている。私はレジに並んでいる人々に視線を向けてから、女の子に
「お母さんがパンを買って来るのを待っているの?」と声をかけると、うなずいた。
 この後、普通の大人は言わない事をその小さな女の子に私は話しかけた。
「ほとんどのパンの原料はね、外国から時間をかけて船で運んでくるんだよ。だから腐らないように薬(防腐剤)が入っているらしいよ。でも、このお店のパンは十勝で作っている新鮮な小麦を使っているから、薬が入ってないんだよ。おいしいくて安全なパンなんだよ」と本で読んだことを講釈した。
 難しい話をどう理解してくれたのかこころもとないが、女の子はうなずいていた。
 ――おいしくて安心なんだ。
 そう思ってくれたのかもしれない。
 やがて母親と思われる女性がやってきた。
 
 おいしそうに食べる女の子の姿を見て、微笑ましい気分になった。右手を小さく振って私はテーブルをはなれた。
 十勝産の小麦と砂糖など、まさに「地産地消」のおいしいパンに満足したが、小さな女の子と会話?ができて、おっさんの心は清々しくなっていた。
 店を出ても女の子の顔が浮かんできて和んだ。
 意味と損得で考える日常にあって、無垢な子どもとの一瞬の出合いに私はいやされていたのだった。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)
忙しい3月、4月だった。人生のクライマックスが一気にやってきた。パンを食べながら、ぼんやりしたい気分だ。

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