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エッセイSP(スペシャル)

三十年先の話

冴木 あさみ

2019年7月 1日

 激しい雷雨、急激な気温の変化、竜巻---
 異常気象も毎年繰り返されれば、もはやこれが今の正常気象。昨年も自然災害で命を失った人のなんと多かったことか。
「この地に数十年暮らしていて、こんな災害初めてです」
 そんな被災者の声を何度聞いただろう。様々な情報から、今後の気象に関して楽観できる展望は悲しいかな、ないようだ。
 ユーチューブチャンネルで世界気象機関(WMO)による二○五○年の天気予報のビデオを視聴できる。現在のまま二酸化炭素が排出され続けた場合の未来予想図だ。盛夏は軒並み四十度超え。札幌も例にもれず四十度を観測する。熱波による死者数は今の二倍。温暖化による海面上昇で沿岸地域は高波にさらわれる。台風も巨大化。地上に設置した電線も鉄塔ごと破壊され、ライフラインが寸断される。昨年の胆振東部地震によるブラックアウトを経験した私たちは、二日間の停電で考えさせられたことは多かったに違いない。
 京都の紅葉がクリスマスの名物になれば、師走の京都人は目が回るだろう。
 三十年後はあっという間にやって来る。個々の意識や努力でどうにかなるほど悠長な話ではない。国や企業が真剣に取り組まなければならない問題だ。しかも世界的規模で。
「三十年後? 俺はもう生きてないから関係ないや」
 職場で気温上昇の話題が出た時、ある男性利用者がそんな先のことまで心配できないと笑った。
「どうかな~? 三十年後まだ貴方は九十歳じゃない!」
 その数日前に彼が還暦を迎えたこともあって、冗談で言ったつもりが、周囲は口々に「そうだ、まだ九十だ」と、どっと笑いが起こった。
 私の職場である障害者福祉事業所では和物の製品を扱っているせいで、高齢者の顧客が多い。今のお得意さまは八十代から九十代。いずれも女性で、お洒落で足取りもしっかりとして、そして図々しい。「まだまだ長生きしそうだね」とは、ゲリラ豪雨のごとく、ご一行様がお帰りあそばした後の皆の疲労の一声だ。
 誰もが長生きを確約されているわけではない。最後まで健康でいられる保証もない。死にたくないけど長生きもなあ…。人間は勝手だ。子や孫の時代の地球を守ろうと言うが、三十年後まだ自分も生きている、かもしれない。老体に連日四十度の熱波は拷問だ。
 過ぎてしまえばあっという間。しかし行動するならまだ時間はある。人生は運命にゆだねようとも、地球環境は人類の英知と行動で守ることができるはず。再びノアの箱舟を作ることのないように。

◎プロフィール

さえき あさみ
今月の健康診断に向けて食に注意をしている。玄米・納豆・海藻・野菜…。お腹が空くからいつも食べ物のことを考えている。

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