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エッセイSP(スペシャル)

かきの種・・

たかやまじゅん

2019年8月26日

 新入社員の頃、独身寮で生活をしていた。お盆と正月の帰省から戻ると、ふるさと自慢のうなぎパイ・ういろう・草加煎餅や、ますのすし・かまぼこを囲んで土産話に花が咲く。
 中でも腹が満たされたのにいつまでも手が出るのが、香ばしくてピリっと辛い新潟名物の元祖柿の種であった。四角い缶に農家のほのぼのした風景が描かれる〝浪花屋〟の柿の種は、新潟県長岡市で、大正8年(1919)からうるち米で煎餅を作ってきた百年企業。
 大正12年に誤って金型を踏み潰したことで小判型のあられになり、〝柿の種〟に似た形から「かきの種」と呼ばれ、創業者が大阪であられ作りを指南されたことに因み、浪花屋を名乗った。いまも国産米を使う「元祖柿の種」としての誇りが、社伝に載っている。
 スナックに行ってテーブルに供される柿の種は、新潟市の亀田製菓フレッシュパックピーナッツ入りで、最近はわさびや梅しそ風味も少なくない。昭和21年(1946)の創業以来、アメリカや中国など海外へ進出、2017年にはJAXAの宇宙食にも認定された。ピーナッツの塩加減があられの醤油味とマッチして、いつの間にか皿が空になってしまう。
 かきの種はビールが弾む。このところお気に入りが、サッポロビールの無濾過プレミアム樽生「白穂乃香」(しろほのか)。フルーティな味わいと乳白色の濁りに深みがあり、〝ロゴ入り〟のグラスがきめ細かい泡を引き立たせる。だが、これが北海道では飲めない。取扱いは本州の限られた店のみで、私のノドを潤してくれたのは、今のところ銀座と神楽坂、そして名古屋だった。
 身近なのが、やはりサッポロビールの「SORACHI 1984」。上富良野で生まれた伝説のホップと謳われるソラチエースを現代に蘇らせたそうな。この缶ビールは、ノド越しひとつでフワーっとする味わいがなんとも言えない。
 いまデパートの菓子売り場に柿の種コーナーが出来た。普通の柿の種より大粒で、チーズ味やトリュフソルトなどが目を引き、大阪で明治35年(1902)に創業したあられ・おかきの専門店だった。こうして柿の種もビールも新たな嗜好をターゲットに進化している。
 ところで、柿の種を口にする度に、〝あのねのね〟の「赤とんぼの唄」を思い浮かべるのは、私だけだろうか・・

◎プロフィール

〈このごろ〉美容室や歯科の台に座ると〝お休みモード〟が作動。暑くても寒くても布団にもぐると1、2、3秒・・昔とちっとも変わっていない。

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