やわらかい手
2019年9月23日
8月末に芽室駅から北にある某幼稚園に向った。園児が「イモ掘り」をするという新聞記事の取材だった。そこは廃校になった小学校の建物を利用して、自然環境のなかでたくましい子どもに育ってほしいとの方針で運営していた。
10分ほどで着くと、さっそく副園長から園児たちがイモを植えて収穫するまでの経緯を聞いた。やがて、園舎の裏手にあるイモ畑に向った。子どもたちの後からゆるい坂を上ってついてゆくと小さな畑に出た。
―雨が降らなければよいが。
曇り空を気にしながら、イモを掘り出す園児たちの姿を撮りはじめた。子どもたちは掘り出したメークインを小さなポリバケツに入れてブルーシートまで運んだ。
途中から小雨が降ってきた。園舎にもどる頃には雨粒が大きくなった。帰路を園児たちは歩きだした。途中で下り坂になっている。雨で斜面が濡れて土の道は滑りやすい。男の子が坂が滑るからと降りるのを怖がっていた。先生が手を差し出して「大丈夫だから」と励ましている。
私はそばにいた女の子の手を掴んで「ゆっくり降りて」と声をかけた。
握ったその手がやわらかい。女の子は下りに向って加速がついた。手を握ったままでは腕をひねりそうだ。そう思った私は手を放した。4歳ほどの女児の腕は筋肉がまだついていない。道は園児たちが歩いて泥んこで一層歩きにくい。私は女児に「脇の草道を歩いて」と助言した。
女の子に接していると、ふいに近年起きている女児虐待死事件が、私の頭に浮かんだ。
札幌の2歳の詩梨(ことり)ちゃん衰弱死。その体に痣やタバコを押しつけた痕があった。東京目黒の5歳の結愛(ゆあ)ちゃん虐待死は、体に170の傷や痣があった。その前は千葉の心愛(みあ)ちゃん虐待死。愛の字があるキラキラネームだが、愛がない親に輝く未来を奪われた。
取材を終えてふりむくと数人の園児が私に手をふった。側で先生がお辞儀をした。「元気でね~」と私も手をふっていた。
―困難がある未来だが生きぬくんだよ、と私は念じた。
◎プロフィール
(よしだまさかつ)
取材で子どもたちに会う。手品教室で女の子に「うまい棒」をもらい、祭りの餅まきでは、男の子から餅をもらった。うれしかった。