釣り友
2019年10月28日
子どもの頃、近くの川で釣りをしていた。陽に焼けた顔の少年だった。その私が社会に出てからオフィスでデスクワークが続いていた。魚釣りから遠ざかっていた。
そんな私が20年前から釣り道具をそろえて釣りを始めた。十勝に遊びに来る東京の釣り人を案内するためだった。小学館の女性編集者や新聞記者のF氏などが竿を持参してやってくる。
釣れる川はどこかと私は不安だった。釣りの達人のY氏にヤマベが釣れる川を案内してもらうことになった。
すると、Y氏の釣り友の中嶋氏も加わってきた。私はなんとなく彼と気が合った。雪が残る4月半ばから二人で釣りに出かけたこともあった。車の中で冗談を言い合いながら釣り場に着く愉しみもあった。春、夏、秋と年に3~4回ほど釣りをするようになった。遊びの時間を確保するために、前日に忙しく仕事を仕上げて翌日の釣りに臨んだ。眠りにつく脳裏にヤマベが跳ねる姿が浮かんだ。
その中嶋氏は10年前に仕事で本州に行ったきり十勝に帰って来なかった。時々互いに近況をメールで伝える程度だった。彼は琵琶湖の近くに住んでいるのが分った。
やがて、私はめっきり釣りをする機会が減った。釣りが嫌いになったわけではなかった。3年前の台風で十勝管内のいくつかの橋が崩落し、あちこちで通行止めとなった。さらに通っていた川の流れが変わった。蛇行した川も台風の増水で直線的な流れに変化して魚の釣れるポイントが減った。釣りは卒業してもいい頃かな、そう思っていた。
滋賀県に住んでいるその中嶋氏が、9月に十勝に帰省すると電話があり、一緒に釣りにゆかないかと誘われた。
12日の朝、彼の車に同乗し南十勝の川へ向った。目的の川を歩きながら、川面に竿を向ける。大木が倒れて歩行を困難にするが大自然の懐に包まれて心地よい。「本州の釣りは管理区域で面白くない」と彼はつぶやく。「大物を釣ったら撮るから、早く釣ってよ」と言って私はスマホカメラを構える。
中嶋氏とそんな会話を交わしながら久しぶりの釣りは至福のひとときだった。
◎プロフィール
(よしだまさかつ)
本州の人々との釣り人脈は私の人生を豊かに彩っている。東京、千葉、群馬、鎌倉に住む彼らに再会すると話がはずむ。