ビーガン
2020年2月 3日
数か月間海外を旅してきた友人の息子が、すっかり変貌して帰ってきた。なんと菜食主義者、しかもビーガンになったという。
動物性タンパク質、魚や肉類を食べないベジタリアンは昔から馴染みがあるが、卵や乳製品を含む、動物性食品、はたまたハチミツまでもいっさい口にしない完全菜食主義者をビーガンという。
彼は昨年まで大学生だったが、世界を見てみたいといって休学しての旅だった。海外では自由な旅人だったが、帰国するとただの二十歳。暫くは実家に居座りアルバイトをする予定で、親は心配している。
海外を放浪すると様々な経験をし、様々な人と出会う。一番影響を受けたのが環境問題をテーマにした開発途上国でのセミナーだったらしい。昨年十代の環境活動家として一躍有名になりTIME誌の表紙まで飾ったグレタ・トゥーンベリの影響だろう。先般のダボス会議でも多くの時間が環境問題に費やされたと報道されたばかり。各国で若者を中心とする活動が増えてきたのは事実である。環境悪化による弊害を実際に自分の目で確認すれば、そのセミナーの与える衝撃と危機感はどれほどのものか想像するに難くない。にしても、突如としてビーガンか。平和ボケした私には極端にも思える。
江戸時代の頃までの日本の食事は、米飯に一汁一菜の粗食が基本だった。タンパク質は大豆や僅かな魚から摂取していたので、日本人はベジタリアン系だった。でも日本人がこれだけ長生きするようになったのは、医学の進歩や住環境の向上のみならず、食生活が豊かになり丈夫な身体を作る栄養を摂取できていることが大きな因子といえよう。個人的には、元気なご長寿は肉を食べているという印象が強い。肉を食べるから元気なのか、元気だから肉が食べられるのか、それは知らない。
アルバイトが決まるまで、仕事を持つ両親のために彼が夕食作りをしている。菜食主義者の作るメニューはもちろん野菜オンリー。帰宅するとヘルシーな食事が用意されていることに感謝しているが、何しろお腹が空くという。寝る前にどうしてもお菓子を口にするので、健康にいいのか悪いのか頭をひねる友人。若者が地球環境に興味を持ち、洗剤やごみの処理、生活全般にまで親に注文を出すようになったのは頼もしい改革だが、二十歳の男子が草や根っこばかり食べて、体力の向上と脳の発達に影響はないのだろうか。昨夜のメニューを聞いて、私は絶句した。
「きのう息子は焼肉食べに行った」と言うのだから。
週に一度、肉解禁日があるという。食事当番が不在で、仕方なく夫婦でカップ麺を食べたとのこと。
この家族の心配は無用になったが、今の若者の特性に不安を感じた。
◎プロフィール
暖冬で野菜が安い。嬉しい一方、育ち過ぎた大根が大量廃棄されるニュースに心が痛む。