麗しき東京夫人
2020年2月10日
上京すると、ぼくにとって「旅の我が家」といっては大変おこがましいのだが、どうも無意識にそうなっているようなところがあるのだ。その家長たる某株式会社社長であられるご主人とは40年以上の親友という長い付き合いでそうなってしまっているのだが。ここだけの話、小生としてはSyukuhakuhiがヒジョーにtasukatteいることはじじつではあるのだが。とにかく御主人に電話を入れる。
「いや、今回はビジネスホテルに泊まるから気にしないで」
「なに言ってんですかセンパイ、そんな無駄なことしないで家に泊まって下さいよ。ほんとに、気兼ねなんかいらないんだって、いつもいってるでしょ」
そして彼の御夫人たるやこれまた出来た人でいったいどういう女性なのかと思ってしまうが、しかも美形で微笑みがステキなのだ。お世話になっている身としては、なれなれしくしないように気遣っているつもりで、話の流れなどで間違っても手をにぎったりなどしません。もしかしてぼくはどこかたよりなくみすぼらしい客人に見えるのか、あるいはかわいそうだからお世話して下さっているのか、ともかくこんな美しい人がかいがいしく優しく気遣ってくださることはないはずなのだが。
あるとき外出から戻って来たら、御夫人が例によって微笑みながら、
「ウメヅさん、あのね、これ伊勢丹で買って来たんですけど着てみてください。本当に何にも気遣いは要りませんからね」
それは包装された紙箱で、しかも赤いリボンで十字に結ばれているではないか。
「何してんの、ダメだよそんなことしちゃ...」
「いや、いいの、いいのよ。気に入らなかったらしょうがないけど」
「いやいや、そうじゃないけど、気ぃ遣わんでくださいよ」
開けてみたら、それはサマー半袖カジュアルシャツで、イエローとブルーのパターンチエック柄が随分とおしゃれなものだった。垢抜けているではないか。東京夫人の目利きは素晴らしい。
1泊2泊となるとゴミも出てくるが、小さなビニール袋を持参しているのでその家に出すわけではない。自分の家に持って帰るのだ。それに人様の家のトイレ、バス、洗面台など使わせてもらうのは気を遣う。それぞれ使用後はきれいにしてから出る。夏のあるとき厚かましくも3泊ほどお世話になったが、御夫人は「洗濯物を出してください、洗濯しますので」と仰って、ぼくは内心びっくりして身体が浮き上がりかけてしまった。
「いやいやスミマセン、いんです、ホント。帰ったら家でやりますから。スミマセン」
御主人は御夫人のことを「babaa」なんて言っているけど、彼はつくづく大事にし、かつ、愛されているんだな、ということがよくわかるのだ。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。