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エッセイSP(スペシャル)

希望の灯り

吉田 政勝

2020年2月24日

 仕事において一人前になるまでには、それなりの月日が必要になる。人生の多くの経験が物事の理解を深める。
 最近「希望の灯り」というドイツ映画を観た。フォークリフトの運転など私の過去のアルバイト体験と重なって映画への共感度が高まった。
 旧東ドイツの巨大スーパーに、在庫管理係として働きはじめた無口な青年クリスは一緒に働く年上の女性マリオンに恋心を抱く。仕事を教えてくれるブルーノはクリスを静かに見守っている。それぞれに心の痛みを抱えている従業員たちは互いに立ち入りすぎない節度を保っている。
 クリスは自販機で飲み物を選んでいるとマリオンが近づいてきて「新人くんおごってくれないの?」と声をかけられた。クリスは「何飲みますか?」と笑顔で応える。ちなみにマリオン役はドイツ女優だが、アメリカの女優ミシェル・ウィリアムズに似ている。
 ある日、クリスは誰もいない休憩室でマリオンに「手を出して」と言い、手のひらに小物を乗せた。それに火を点すと小さな花火がキラキラと舞い上がり「誕生日おめでとう!」と祝福した。マリオンは「どうして知ってるの?」と驚いた。マリオンが人妻と知っているクリスはそれ以上の深入りはしない。だが、マリオンが仕事を休んでいると寂しさは否めなかった。
 クリスが帰宅のためにバス停にいると上司のブルーノに「家で飲まないか」と誘われて同乗した。彼の妻は家を出ていって独り暮らしだとクリスは知る。「おまえはもう大丈夫だ」と励まされた。その数日後、クリスが出勤すると、同僚に「ブルーノはもう来ない」と言われる。自宅で首を吊ったというのだ。クリスは誰もいないブルーノの家を訪問し、雑然とした部屋の中を見回し呆然と立ちすくむ。
 クリスが倉庫内をリフトで移動していると危険行為で禁じられているリフトにマリオンが後ろに乗ってきた。
 「リフトの先を下げる時に波の音がするって、ブルーノが言っていた」とマリオン。クリスはやってみた。二人はリフトが下りるのを耳をすませながら見ていた。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)
リフト運転は30代末に経験した。時々その頃に共に働いた顔を思い浮かべる事がある。

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