堂々たるおんな
2020年3月 9日
スナックで中年以降のママさんに、若い頃はどちらかといえば美人の範疇に入っていただろうというような何人かの人に尋ねてみたことがある。
「ママは若い頃はきれいだったでしょ」というと相手は、
「昔はそういうふうに言われたことがありますよ」
と、いかにも当然という表情で答えるのである。そのさまに閉口してごちそうさんだが、男ならそういうことは言わないだろう。水商売などは客の気分次第で仕事がはかどるところもあるせいか、どういう状況にあっても自らを常に立てていかなくてはならず、物事を前向きに押してゆくしかないのではないか。
おとこなら「アナタ若い時からイイ男だと通っているでしょう」と言われても、「えぇ...」とか「そうですねー」だとかなど言わないだろう。
かつて某病院で入院手術していた時のこと。いろんな看護師が来て管理対応してくれた。その時ある看護師は30歳くらいなのか口数は少なく静かな日本的美人で、ぼくは寂しいから少しくらい居てくれないかなと思っていたのに、点滴を取り換えたら去ってしまった。そして次の看護師が来て、彼女も大体同じくらいの年齢なのかそれは現代的な美人なのだ。いや、美人だからどうだこうだという話でもないが。今の人の名前はなんて言ったか気になったので、その看護師に聞いた。
「あの、いま来ていた看護師さんの名前はなんて言ったっけ」
するとその美形の彼女は、ぼくの方に顔を40センチくらい近付けた。そして、
「あのね、あの人はね、ここの病院で私に次いで2番目にきれいな人よ」
と、特に「よ」のところを甘い声で、どうも言い聞かせるようにして言った。
ぼくはおかしくて「ブッ...」と吹き出しそうになるところを懸命にこらえつつ、咳でもするみたいに「ググッ」と咳払いをした。彼女を見ていておんなというものは甘さと濃さと粘りがあるものだなとつくづく感じ、いったいどうしてそんなに自信気に言うのだろうか、と思った。なんだかおんなとおとこのちがいを垣間見た。
おとこはこういう言い方はしない。つまりおとこは物事について思慮深さもあってかそう簡単に答えは出さないのではないのかな。おとこと比しておんなの場合はわりあい即座に、自意識から応えるところがある。なるほどおんなは子を産むわけで、骨盤が大きくお尻もどっしりしてどこか泰然自若としているらしいところがあるのだ。もしかしてモノを言うところがあるのはそういうところからきているのだろうか。そうか、世界というものは、おんなが男の後ろに立って動かしているのではないか。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。