試 練 の 時
2020年5月11日
元号が令和となった昨年。即位礼正殿の儀において、天皇の国民の幸せと世界の平和を常に願うというお言葉があった。皇后のご経歴を知るゆえ、グローバルな皇室をイメージした国民は多かったのではないだろうか。新しい時代の節目に、日本全国が新鮮な思いと、明日への希望に満ちあふれていたはずだ。
それから半年と経たないうちに世界がこんな危機に陥るなんて、誰が想像しただろう。
こんな時だからこそプラスワンには楽しい文章を載せてもらおうと一カ月内容を考えていたのだが、頭の中はフリーズ。毎日感染者の増加を伝える報道と、コメンテーターによる政策批判ばかり聞かされていては楽しい気分になどなれない。最近は淡々と事実だけを伝えるニュース以外の情報番組は一切見ないことにしている。
私の勤める福祉事業所は、今も平常業務を行っている。ドアノブ等の消毒をして、手洗いもしくは手指の消毒に気を付けて、来客を断っている以外、事業所内はいつもと変わりない。既往症により感染に不安を抱える利用者が緊急事態宣言を受けるたび、自主的に休む人が一人いるくらいだ。この人は「みんな危機管理が足りない」と気が荒くなっていたが、そう言う割には人と近距離で一番お喋りをしている。
危機管理は何よりも大事だが、どこまでやれば合格なのか、今も解らない。人ごみに行かない、手洗い、消毒、規則正しい生活と栄養摂取で免疫力を上げるよう伝えてはいるが、受け止め方は人それぞれ。消毒というキーワードに反応して、仕事帰り毎日のように地下鉄やバスを使い、消毒液を探して歩き回っていた人がいた。楽観的な人もいれば、イライラして機嫌が悪くなる人もいる。危機に直面すると隠れていた人となりが顕著に表れるというが、なるほどと思うこの頃である。
気温が下がったある明け方、身体が冷えたせいか怖い夢を見た。氷水に水没し横たわっている男性が目の前にいた。両腕をひいて上半身を起こしたはいいが、側にあった車いすにまで乗せることはできずに困り果てた。介護士の資格を持つ同僚に「こんな夢を見たけど、脱力した男性を私一人で車いすに乗せるにはどうしたらいいの?」と聞いたところ、様々なテクニックを述べた後、でも最後は力かなとの返事。そのあと「夢の中でも誠実なんですね」と感心された。「ごめんね、無理だわ」と言ってその場を去った結末まで話すのを忘れていただけだ。
もう、無理。そう言って去ることが出来ればどんなに楽だろう。逃げる場所のない私たちは戦うしかない。
◎プロフィール
戦後三十年足らずでJapan as no.1にまで導いた日本のお父さんがた。今改めて尊敬します。