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エッセイSP(スペシャル)

ムダ・・

たかやまじゅん

2020年5月25日

 小学生の頃、切手ブームがあり、皇太子(現上皇)ご成婚など記念切手の発売日には、郵便局が開くのを待っていた。この時から〝もの集め〟が始まり、いま旅先の風景で重なるのは、切手にあった国立公園や国定公園の絵柄である。
 本棚には、中学から高校にかけて読み漁った『徳川家康』『新平家物語』など歴史小説が並び、私の歴史好きはここに遡る。さらに、ダンボールで眠っているレコード類は、音楽ソフトに変換しておいたので、いまFMラジオの番組で毎月放送している歴史の話に歌を繋げた『歴史歌謡講座』で役立ち、レコードジャケットは、Facebookで紹介する写真として使えた。
 すでに半世紀以上に及ぶ蒐集をしてきて、ふと立ち止まった際、何かムダなことをしてきたのでは・・と自責の念に駆られることもあった。しかし、〝ドラえもんのポケット〟のように膨らんだ物や知識は、書いたり喋ったりする機会を得たことで活かせている。
 一般的に〝無駄〟を現す言葉は、「無駄遣い」や「無駄働き」など枚挙に暇がなく、浪費や徒労にも言い換えられる。その語源は、「昔は馬で荷物を運ぶことを一駄二駄と数え、荷物が無ければ収入がない」ことを指すそうな。
 世上、ウイルスによる自粛を余儀なくされ、三日と開けずに街へ足を運んでいた私は、「ステイボーイ」となった。反面、家に居ることから、買い置きした本や美術展の図録を紐解き、一回聴いたきりの音楽を、再び耳にする〝至福の時間〟として生まれ変わった。
 私の周りには、物集めの達人も多く、しばしば男同士の長話に興じてきた。この「無駄話」から助言を受けることも少なくなく、いまどうしているのか連絡をしてみた。やはり、「集めたものを整理中だ」とか、中には「家族旅行を取り止めたので断捨離をしている」などと耳にする。
 私も春の京都へ行く準備をしていたが、手配済の交通手段や鑑賞チケットなどをキャンセルするも、幸い全てが払い戻しとなり、ムダにならずに済む・・。
 ところで、近ごろ衣服がキツくなってきたのは、どうやら口寂しさに「無駄喰い」をしたようだ。

◎プロフィール

〈このごろ〉師とも父とも仰いだ方の訃報、享年93歳。6年前に知己を得て、数多の薫陶を受ける。折からの家族葬で、見送りが叶わなかった。

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