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エッセイSP(スペシャル)

装う自由

冴木 あさみ

2020年8月 3日

 数十年前の大学生の頃、トレーナーを裏返しブランドのタグを見せて着るというファッションが一時期流行った。
「今朝もどっかのお婆さんに『おねえちゃん、服裏返しだよ~』って言われた」
「私なんて学校着くまでに三回声かけられたよ」
友達同士かしましく笑って、ああ、今思い出しても若くて可愛い女学生だったことよ。
 時代と共にファッションは変わる。その年の流行があるにせよ、今は何でもありの風潮がとても嬉しい。クローゼットが満杯でも、女は新しい服を買いたい。年配の女性だって今のトレンドをちょっと取り入れたいと思っている。
 でも、なかなか好きになれない着かたがある。今年もよく見かけるけれど、ブラウスやシャツの前部分だけをパンツやスカートのウエストに挟みこむ着こなしだ。ズボンのチャックを閉め忘れたおじさん級の違和感レベルで、どうしてもだらしない感じを受ける。トイレであたふたしたのかなと想像せずにいられない。
 ある朝、急ぎ足の通勤客が行きかう大通りで、スッと私を追い越していった女性の姿に驚いた。シフォンのスカートの裾が大胆不敵にめくれ上がりお尻をペロンと出して歩いている。
(前衛的ファッション。いやいや、ありえないでしょ)
 急いで彼女を追いかけ「ちょと、すみませんが」と後方から声をかけた。彼女は一瞬驚き、警戒感むき出しの「はぁ~?」という言葉を発して目を剥く。「なに、このおばん」とでも言いそうなリアクションが気に障って、一瞬教えてあげないという気持ちにもなったが0.5秒我慢して、「後ろ、めくれてますよ」と伝えた。「ぎゃゃ~」かどうか、表記できない複雑な声が彼女の喉から吐きだされ、彼女は無事お尻をしまう事が出来た。ありがとうの一言がなかったのは、よほど慌てたせいだろう。それにしても、彼女はどこからお尻を出して歩いてきたのだろう。その間誰にも注意されなかったとは、世の中結構冷たいんだな。
 「おねえちゃん、服が裏返しだよ」と言ってもらえた昔、そんなささいなことに気付いて、誰かが自分に声をかけてくれたことは、温かい思い出として忘れはしない。
 公共の場で不快感を与えなければ個々の装いは自由であるべきだ。時々見かける女装したおじさんやお爺さんも、生きてこその装いの自由を満喫しているに違いない。雑念に縛られ解き放たれずにいる私は、未だに遠慮なくじろじろ見てしまう。

◎プロフィール

カニの部位で一番好きなのはふんどし。声に出して注文できない淑女のために名称を変えてほしい。

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