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エッセイSP(スペシャル)

実りの秋

吉田 政勝

2020年9月28日

 9月半ばに雨が数日続いた。
 晴れ間を待っていた朝、作業ズボンにはきかえ、軍手にスコップを持ち狭庭に出た。植えたイモを掘り起こす日がきた。葉が枯れて朽ちた茎の根元の土を掘ってゆくと白っぽいイモが顔をだした。少し汗ばんできたころにはイモ掘りは終わっていた。たった30個ほどのイモを集めてカメラで撮影した。ささやかな収穫祭だ。
 このイモは春先に、地下の室に貯蔵していたが芽を出していたので、いくつかに切り分けたものを庭の隅に植えてみたのだった。
 土作りという大げさな作業ではないが、庭の土を起こし家庭菜園の店で購入した腐葉土を混ぜた。やがて葉が伸びて7月には紫と白い花が咲いた。間引きして移植したイモも見事に実っていた。翌日はさっそくカレーライスを作ることになった。大粒のイモは皮をむくが、小さなイモは洗うだけでそのまま調理した。
 カレーライスを食べながら、晩成社の明治19年のイモ掘りを思った。帯広で初めての本格的な大規模農場はこの晩成社ではないだろうか。
 この年、依田勉三は大津の近くのオイカマナイで牧場作りに着手した。鈴木銃太郎は5月に先住民族の女性と結婚して春から芽室の西士狩開墾に通った。幹部が新天地を求めて開墾が始まり留守がちの中、帯広村に植えたイモは大豊作だった。穫れたイモを丸木舟で何度も大津に運び売った。伊豆の株主たちは配当金を手にして祝ったと記録されている。苦労の畑づくりが収穫に結びついた年だった。
 アンデス山脈のふもと地帯がジャガイモのふるさと。イモは十勝の風土に合った安定作物となった。今では数多くの品種が育っている。
 この春は種イモを逆さ植えにした。芽を下に向けて植えると上向きに強く生育する、と「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんが講演で話していた。
 人も下に向く時期がある。私の青春は貧しく誇れるものがない下向きの日々だった。ふり返ると今を育んだ不遇の時代だったと懐かしく思う。

◎プロフィール

商業デザイン、コピーライター、派遣業務などを遍歴。趣味は読書と映画鑑賞、時々初心者料理も。

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