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エッセイSP(スペシャル)

めんそ~れは改めて

冴木 あさみ

2021年1月11日

 昨年はコロナ自粛生活で終わってしまった。長いようであっという間だった。歴史に残る禍に侵された一年間、生きていただけでありがたいと思わずにいられない。
 感謝しつつも、自分に課した品行方正な自粛というストレスが私を狂わせ、傍若無人にも悪あがき計画に手を染めてしまった。年末年始は沖縄で過ごそう。
 本来ならばこの原稿は沖縄の海を眺めながら書いているはずだった。現実はテレビの正月特番の音をBGMに加湿器のミストを浴びながらキーボードを叩いている。
 飛行機や新幹線の換気システムは優れているらしい。観光バスの車内に充満させた煙が、十分程度で消失する実験映像も何度かテレビで見た。旅行自体悪いわけではない。問題なのは、複数人で感染予防意識が失せてしまう事。だから一人旅に限定すればいいと主張する人もいた。それらの情報を総合的に整理して踏み切った、沖縄一人年越し計画だった。誰とも喋らず、観光も目的ではない。ただ時間を忘れて南の島の海を眺めたかった。ただそれだけ。
 世界が未曽有の禍の中にありながら、不覚にも心浮きだたせてしまった私。首都圏で暮らす家族が帰省できないので、初めて母という役割を免除された正月だったからだろう。正月の準備にあくせくする必要が無い。自由だ。なんという解放感。でも手放しで喜んでいたわけではない。感染の不安は常に感じている。現地の医療機関やホテルに迷惑をかけないだろうか。帰宅後発症して職場が閉鎖になったら...。でも飛び立つ気持ちは不安よりも強い。
 そして、飛行機の座席指定を済ませた翌日、菅総理の口から Go  To トラベルの一斉停止の発表があり、無念にもキャンセルの手続きを行った。
「こんな時にな~に考えてるんだ」
うっかり経緯を話してしまい父に怒られた。還暦の娘が高齢の父に叱られるとは情けない。
 コロナ倒産件数が過去最大となり、住む家さえ失った人は少なくない。受験生、就職を控えた若者、その家族はどんなに苦しいことだろう。自分のストレスなんて旅に出ずとも工夫次第でどうにかできるものだ。まして経済回しますなんて言える富裕層ではない。反省すること然り。この失態は未遂で終わったことだし、ぎりぎりセーフと大晦日に水に流した。
 大雪が予想されていたにも拘らず、運よく今日はまぶしい太陽が部屋いっぱいに差し込んでいる。こんなちっぽけな幸運を見つけられること。その日々の積み重ねが大事に思える。
 生きてさえいれば、改めて沖縄にめんそ~れ。

◎プロフィール

静かなお正月。年末年始は自宅で過ごせて心身回復できてよかったです。

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