スーツを注文すること
2021年1月18日
スーツの製作タイプには既製服とイージーオーダーと注文洋服があってそれぞれ個性があり、どれを選択するかは客の思いによって決まる。
テーラーの注文洋服は高価ではある。生地が決まったら、採寸して仮縫いを作る。それを客に着せて過不足を確認した後に、ハンドメードで縫い上げて納品となる。ちなみに本場の英国など欧州では仮縫いというものを数回行うところが多い。
時代は高度経済成長を経て職人も高齢化し、しかも後に続く者が減ってきて廃業した店も多い。
また、戦後の工業化の流れ作業によって大量生産されるレディメードというものが登場してきた。さまざまな体型を踏まえてA体、AB体、B体などというようにそれぞれの体型に沿ったパターンを使って最初から作られた規格品である。客は希望の色や柄およびデザインを伝え、自らの体型をスタッフに見てもらってそれに合うスーツを試着して観る。それが大方合っていれば可となるだろう。その「大方」の意は、適格などありえないということを指す。何故なら、既製服は各サイズ毎に作られているわけで、特定の人の為にあるわけではない。
やがてデパートや専門店などで、寸法を測るだけの仮縫いなしで出来るイージーオーダーというものが擡頭してきた。それは注文洋服のような作りとは違うが規格品で低価格で着易さもある。
テーラーといっても当然イージーオーダーを取り扱っているところもある。それは専門店としての仕事になり、ドローイング、パタン作成、裁断、仮縫などを行ってきているという経験から対応してゆくことになるのではないか。採寸ひとつにしても、胸囲寸法は腕の付け根の脇から水平に胸回りを測るわけだがそれが簡単ではない。例えば98センチだとしても、その方の胸板は厚いか薄いか及び胸の横幅は広いか狭いかでも違ってくる。 特に首回り肩回り袖付け回りなどは超難所であり、とても寸法を測るだけでは間に合わないだろう。何故にそれほどまでに難しいのか。それは人体というものは直線がなくすべて曲線で出来ていて、そのカーブラインに合わせて作らなくてはならず、しかも1人とて同じ体型の人間は存在しないというところにある。
テーラーの場合は特定の客が多く、何よりも顧客は社会的立場とか人格などによって事を成してゆくわけで、その為にも服装は重要なものである。従って技術的な対応とファッションアドバイス他を兼ね合わせ、総体的に顧客の仕事や人生に対して黒子として付かず離れずで対応しながらいかにアフターをやってゆくか、という様々な付加価値をレベルアップさせたニューオーダーとしての対処をしてゆくということになる。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。