ハガキを拾って
2021年3月22日
時々、忘れていた出来事が何かの拍子に記憶の底から浮かんでくることがある。中学の3年間私は新聞配達をしていた。
配達の途中で未使用のハガキを拾ったことがある。手にすると泥がついていて多少汚れていた。とりあえず、ポケットに入れた。汚れたハガキを使用するのは相手に失礼だ。
(でも、何かに使えないだろうか?)
そう思って少年漫画雑誌を開いていると、ハガキで応募して景品が当たるページが目についた。クイズの答えと自分の住所と名前を書いて投函した。
そのハガキを出したことを忘れたころに、小箱に入った郵便物が届いた。文字盤にディズニーのミッキーマウスがプリントされた腕時計だった。腕時計をもっていなかったので、うれしかった。中学2年生でキャラクター入りの腕時計も気恥ずかしかったが、何より時間がわかれば十分だと納得した。学校の登下校時間や新聞配達へ向う時間。朝刊や夕刊が販売店に到着する時間をその腕時計に頼った。
新聞配達のわずかの給料を何に使ったか忘れてしまったが、中古の自転車を買ったのは覚えている。あとはお腹を空かしていたのでパンやお菓子を買ったような気がする。
中学3年生の卒業とともに新聞配達も辞めることになる。自分の後がまは自分で探すのが通例となっていた。
近所に住むK君に「新聞配達しないか」と声をかけた。迷っている様子だったので、「ぼくが使っていた腕時計をあげるから......」と口説いた。
配達の順番を地図に記してK君に渡した。
約50年後に当時の販売店の所長と再会できた。所長は「いろんな人に配達してもらったが、あなたとK君のことは強く印象に残っている」と笑顔を浮かべた。
休まず遅れずに配り続けた新聞。つらいことをみんなとともに楽しんでみる。一軒から配り始めて確実にゴールにたどり着く。小さな仕事を積み上げてゆく今の私の仕事につながっていた。
◎プロフィール
商業デザイン、コピーライター、派遣業務などを遍歴。趣味は読書と映画鑑賞、時々初心者料理も。