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エッセイSP(スペシャル)

てすり・・

たかやまじゅん

2021年3月15日

 初めてエスカレーターに乗ったのは、子供の頃に連れて行って貰った東京のデパートだった。動く階段が面白く、何度も上ったり下ったりして叱られたことを思い出す。
 今、エレベーターとエスカレーターのどちらを利用するかと言えば後者が多い。駅のホームやデパートは元より、大きな集合施設にはたいがい設置され、急ぐ時はステップの空いている片側を歩いていた。この時せっかちな私は、人の流れが止まるようなものなら「早く行ってよ」と思わず声を上げそうになる。
 ところで札幌は、ステップの右側を空けるが、都市によっては左側もあり、これには行った先で戸惑った。近年は危険を伴うことから、エスカレーターを歩くことは禁止されており、掲示ステッカーや館内アナウンスで注意が促されている。
 長らくエスカレーターを利用してきて、ベルトに手を触れることはしなかったのが、この頃はしっかりと掴んでしまう。まして普通の階段で手すりがあると、知らず知らずのうちに握っていた。これは数年前にステップを踏み外し、大けがを負ったことがトラウマになったようだ。
 因みに、我が家の玄関や浴室には幾つも手すりがあり、手を伸ばすと直ぐに掴め、階段の壁にも施してある。これは10数年前に家を建てたとき、同居する義母の安全のために設置したもので、階段でひときわ木肌の白さが目立ち、分かり易いと喜んで貰えていた。だが、義母はすでにいない。
 最近、この手すりが茶色っぽく見えてきた。木材は年数で自然な飴色になるそうだが、いまこれに頼っているのは私であった。まして膝を痛めたことから、上りはヨイショヨイショと握り、下りるときはスススッーと滑るように手を離さず、一日に何回も握るので艶が出たのかも知れない。外へ出た時もつい手すりのある所を探してしまう。
 2月の後半から三寒四温になり、昼間の路面は圧雪が融けてザクザク状態、これが夜に凍れると翌朝はガチガチとツルツルに変わった。だが、これを歩くのにはとうてい足元が覚束かず、自然と足腰に力が入る。反面きれいに除雪された車道はデコボコがなく、車の往来を見計らいながら歩いていた。こんなとき、歩道にも手すりがあればいいと思うのだが・・。
 長かった冬が、弥生3月も半ばを過ぎると目の前に路面が現れ、足取りだけでなく弥が上にも気持ちが軽やかになってくる。

◎プロフィール

〈このごろ〉古代インド英雄伝「ポロス」のシーズン2が始まり、中国歴史ファンタジー「九州縹渺録」は後半になった。益々テレビから目が離せない。

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