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エッセイSP(スペシャル)

ぼっち

冴木 あさみ

2021年4月 5日

 長いはずの冬も気付けば終わっていた。
 外出がはばかられるこの一年、深夜番組『ヒロシのぼっちキャンプ』でエアキャンプに浸っている。お笑い芸人のヒロシが、ひとりぼっちでキャンプをする様子を淡々と映すだけの三十分。人のいない場所を探し、一人用テントを張り、火をおこす。ランタンの仄かな明かりで悦に入りコーヒーを飲む。飯を炊き、肉を鉄板で焼いてみる。寒い日は一人用の小鍋でキムチ鍋。ただそれだけ。
 毎回特別なエピソードが用意されているわけではない。特段喋りが得意でもなく、語彙力も高いとはいえないが、飾らないところに親近感がもてる。閑散とした自然の景色と焚火の焔。何も起こらないところに引きつけられるから不思議だ。三密を避けるコロナ禍の生活様式に合致することもあってか、ぼっちキャンパーは増え、CMにも真似されている。
「ヒロシです・・・」
 斜めに構え独り言のような自虐的な語りで一躍有名になったのは十数年前のこと。花の散るのは早かった。お笑いを目指して故郷熊本を出て以来、人生に振り回されてきたせいか、人が怖いという。紆余曲折を経た今のヒロシだから魅せることができるぼっち感は、彼が辿りついた芸の境地といっていいだろう。
 『ぼっちキャンプ』と同様、ヒロシの『迷宮グルメ 異郷の駅前食堂』も私の癒しの時間となっている。
...遥か遠くへの独り旅...日常生活からの逃避行
 こちらもヒロシが異国の街で一人気ままに歩き、地元の食堂で一人食事をするというもの。彼の英語は多分失礼ながら中学一年レベル。それゆえに英語の通じない国でも臆することなく、会話が成り立たなくても、メニューが読めなくても何となくほのぼのとしている。撮影クルーには通訳、或いは英語の達者なスタッフもいるに違いないが、あえて手助けはしない。勘違いしても格好悪くてもそのまま。言葉の壁は、不自由でありながら海外旅行の醍醐味ともいえる。新しい収録は苦し紛れに国内を歩いているが、一日も早く異国へと旅立つ日が来ますように。それまでこの企画が終わりませんようにと祈っている。
 人との距離をおく生活が続く今、こういう素朴な画像に癒される人は少なくないだろう。忙殺される日々の合間に、自分を見つめたり、孤独を愛おしんだり、煩わしいと感じる人間関係も、ある程度あった方がいいかもしれないと思ったり。逆境から学べるものは多いものだ。

◎プロフィール

初々しい社会人が仲間入りする四月の通勤時間帯。古い顔を見かけると自分もまだ頑張ろうと思う。名も知らぬ通勤仲間という人間関係もある。

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