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エッセイSP(スペシャル)

異界への旅

梅津 邦博

2021年5月17日

 道の駅に寄ることがある。たいていトイレ使用だが、仕事で廻っているせいか飲食や買い物をすることはあまりない。ま、遠出のドライブなどでちょっと寄れば息抜きになるかも知れないが。しかし何かしっくりしないのは仕事中とか生活を引っ張っているからだろう。考えてみれば、家や職場から出発して幹線道路を走りつづけている途中で道の駅へ行くそれは、そもそも出発点からの延長上にあってまた戻って帰るという結果的に日常としての一連性があるだろう。ところが同じ駅でも鉄路となれば、それはあまりにも違う世界だった。

 東京出張からの帰りいつも飛行機ばかりでは味気なく、上野駅から新幹線に乗った。そして新函館北斗駅で下車した。ここまで来たら北国へ来たなと思う。そして「特急北斗15号」に乗り換えてゆく。ドアが開いて、招く係などいないが居たら風情があっていいのにと思いつつ足が勝手に昇降口へ昇って乗車する。やがて南千歳駅に着くと「特急とかち7号」に乗り換えて発つ。
 自由席の窓際に座った。客はほとんどいない。明日のスケジュールを確認し、新聞に眼を通してゆく。それからキヨスクで買ってきた幕の内弁当の他に小さな紙パックの酒もある。それを開けてゆっくりと飲む。辺りを見廻したり車内誌に眼を通したりしているうちに、気分がふわりとしてきた。
 列車が走る、ガタタン、ガタタン、ガーッ、ジージー、という音が眠気を誘う。酒を飲み干したがもう少し大きいのにすればよかったかなと思う。頭の中で澱みが生じて瞼が重くなってきた。もしかして何かが、生き方が下手なぼくをどこかへ連れてゆこうとしているのか...という気もする。うつらうつらしているとそのうちにどこからか声が聞こえてきたような気がする。
 ―元気か...しばらくぶりだな。
 あっ、となったがぼんやりとしているせいか声が出ない。
 (あぁ...)
 ―ちゃんとやっているのか、大変だろうけど元気でやりなさい。
 (あ、はい...)
気持ちの底で泣いてしまった。生業がひどかった時期があったことで、父に対して申し訳ない思いがしていたのだった。人と話しすることなど苦手でどうすることもできなかった。
 (父さん...すまなかった...。でも、いまなんとかやってます)
だんだんと眠くなっていった。いつしか走行音が弱くなってきたような気がしてきた。どこを走っているのか。うっすらと瞼を開けたら、え、まさか! 列車はどこを走っているのか...窓の外をよく見たらあちこちに星がたくさんきらめいているではないか。
 (大変だ...銀河鉄道ではないか...)もう眼を開けていられない...。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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