凄腕の女医
2021年7月12日
以前、大腸内の潜血を調べるキットを関係機関に送ったところ後日ハガキが届き、〈陽性〉とあって驚いた。気の弱いぼくはオロオロし、行き付けの病院へ行くと診療は終わっていたが、看護師がいてそのうちの一人にハガキを見せたら、彼女は、
「今日は終了したけど、とにかく早く診てもらってください!」
と怒ったような表情で言った。え、そんなに大変なのか...とますます不安になってきた。家に帰ると知人が来ていて事の顛末を話すと彼は、
「カメラがあちこちに当たって痛くて大変なのだ、という人も多い」
そして彼は、帯広市内の西1条にあるA病院で大腸内視鏡検査を受けたことがあり、そこはとにかく腕の良い女医がいて評判なのだと。そうかそこへ行こう。翌朝さっそく向かった。
外来受診で初めてお会いした女医はヨウコ先生といってやさしく温かい笑顔で応対して下さった。なんだか、昔、近所にいていつも笑顔で親切にしてくれるおねえさんとかいうようにも見えて、胸の内側でポッと小さな明かりが灯ったような感じがした。医者という人体の不都合を治療するなんていう種族にはいくぶん前屈みに両腕をだらりと下げてただ神妙にしているほかないのだが、女医はニコニコと微笑まれ、温かく包むような雰囲気が伝わってきて少しは不安が払拭されたのだった。
後日検査に入り、一ヵ所ほんのちょっと何ミリかのポリープがあって摘ってもらった。あとは「腸内環境はとてもきれいですよ」とのことで、日帰り入院で帰宅した。
それから数年が経っていた。ストレスなどのせいか腸の状態が少し気になり、念の為再び受診に行ってきた。ヨウコ先生に久し振りでお会いした。優しくていい微笑みを見せてくれる。それに会いたくて来ているような気もするのだが。
「如何なされましたか?」
「あの、また検査をと思いまして」
日時を決めて後日行き、2階の検査室に入った。
先生は準備をしており、集中しているその横顔は緊張が漲ったような怖い表情だが美しい貌をしている。そして対応してゆこうとする物事の力というものを感じさせられる。凄腕の女医だとか聴いたことがある。
オリンピック組織委員会の前会長は女性蔑視発言で辞任させられたが、女性も一流ともなれば凄い存在で凛とした表情の女性が多いのではないか。軽んじてはいけないのだ。
「それでは始めますよ ― 」
入口から盲腸までへと進めていく。画像にピンク色の腸内が映し出されている。そうして10分くらいだったかで終了し、
「今回ポリープはどこにもありませんよ。それにすべてきれいですね、異常は見当たりません」
先生ありがとうございます。今後のご活躍をお祈り致しております。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。