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エッセイSP(スペシャル)

コルバの「櫻あんパン」

梅津 邦博

2021年12月13日

 アンパンが好きだという人は多いらしいが、おいしいと思えるほどのものはどれほどあるのだろうか。そこでおいしいアンパンとはどういうものなのかについて自分なりに考えてみたい。
 いってみればアンをこってりとして甘くべタベタしているのもあるのだが、どうなのかな。そしてまたアンを包むパン自体、妙になんとなく萎んだ感じがするのも見かける。この根幹ともいうべきアンとパンの二つの問題はとても重要なスタンダードではないかという気がする。やはり素朴さと味わいを通して品格があればいいのではと思う。
 なんといっても小豆というものには日本人の精神性に関わる部分が大きいのではないのか。それから作られる餡はあんパンの心臓部ともいうべき核心的生命でもある存在なのであって、民族的歴史的想念からの魂みたいなものでもあるのではないかと思っても過言ではない気がしている。
 太陽の光と澄んだ空気ときれいな水などと共に畑のあらゆる生命を吸収しつつ育った小豆ゆえに、やはり丁寧に扱うべきなのだろう。それはまるでオーケストラの指揮者がタクトを振りつつ各奏者に微に入り細にうがつようにしながらして伝えるがごとく、重層的に餡が作られてゆくのだろうなという気がしているのだった。そうして出来たものは光輝くような餡になってゆくのではないだろうか。どこか脂ぎっていて私はあんぱんよなんて言っているのがあったとしたら、ちょっと受け付けられない気がしてしまう。
 実はここだけの秘密だが、ぼくは帯広の『コルバの櫻あんパン』をいつも独占するみたいにいくつかまとめて買っているのだ。朝のうちに行かないと残念なことに売り切れて無い場合があるのだった。
 ビニールの袋に入れられているその薄茶色っぽい色をしている櫻あんパンを、慈しむようにしてちょっと見詰める。それを手にすると手のひらくらいの大きさの丸い型で厚さは5㌢ほどか。自分はあんパンだと主張していないところが、昔のあの慎ましい女性の美しさみたいに感じられてとてもいいではないか。そして極め付けは、表面の中心に塩漬けにした小さな赤紫色の櫻の葉が埋め込むかのように張り付けられているその姿は、なんというか高貴な凛とした品格のような感があるのだった。つくづく魅力的ではないか。そうして袋をビィーッと破らせて頂いて取り出し、両手で割ると餡が秘密みたいにしっとりと入っているではないか。
 (ううむ...すごい)
 はむっ、はむっ、と口にすると、素朴で上品なあっさりとしたきれいな美味しさに静かな溜息が出る。楚々とした日本の美しさがあるのだった。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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