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エッセイSP(スペシャル)

一体どうなってるの?

冴木 あさみ

2022年2月 7日

 昨年の大みそかは長崎にいた。師走の仕事は予想以上の忙しさで旅支度もできず、出発当日にトランクに洋服を放り込み空港へ向かった。初めての地、土地勘もなく、下準備もなし。旅行雑誌を買ったものの目も通さないまま現地に着いた。こういう時は半日市内観光バスに乗りおおよその雰囲気をつかむのがいい。
 市内、平和公園、出島、グラバー園...さらっとおさらいした中で、孔子(こうし)廟(びょう)というところに行った。あまり興味のない場所にまで連れていかれるのは観光バスの欠点であり利点でもある。
 孔子の遺品を収めて祀ったのが始まりで、七十二人の賢人の石像が整然と並んでいる。狭い敷地内の中国歴史博物館には、中国からの贈呈物が展示されているらしい。階段を上って入ろうとした刹那の場内放送。
「まもなく広場で変面ショーが始まります」
 一瞬にして面が入れ替わる変面ショー。今日のこの日、こんな場所で見られるとは何とラッキーなことよ。踵をかえして歴史的文物に背を向けることに躊躇などあろうか。
 寒風の中、石造りの広場には数十人の観客が集まった。
 聞きなれない中国の音楽と共に、赤いマントと扇を翻し登場した男性演者。踊りながら観客に近寄ってきた。仮面ライダーショーさえ見たことがない私だが、妙にワクワクしている自分がおかしくて楽しい。いつ変わる? どう変わる? ほねっこを前に待て状態の犬と同じだ。
 扇を顔の前でひらりとさせると一瞬にして面が変わった。おお。歓声が上がる。白だったり赤、青、緑、黒い面もあった。女性の面では女性らしく、邪悪な面では激しく動きや踊りが変わる。観客全員の目が強烈に演者に注がれている。「一体どういう仕組みなのだろう」と一様に目が語っている。

 きっと特殊なゴムで帽子の中に引っ張られて収まるのだろう。一枚ずつはがれていくに違いない。しかし、顔を覆う面は一枚。しかもぺらぺらした感じのもので密着感が無い。終盤ぱっと素顔が現れた。これで終わりかと思ったところ、また瞬時に面がかぶさる。どうなってるの? 盛大な拍手を送りながら顔を見合わせ首をひねる観客。
 ネット上では仕組みの解説やネタバレがある一方、秘伝で中国の国家秘密級とまで書かれている。国家秘密を探って命を狙われては困る。謎は謎のままミステリアスに残しておく方がいいことも世の中にはたくさんある。テーブルマジックも然り。スプーンが曲がっても、コインが消えても増えても、感動するにとどめておく方が楽しい。と言いつつも、実に不思議だ。

◎プロフィール

さえき あさみ
二月は逃げ、三月は去るらしい。コロナウイルスもそうあれ。

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